「イラスト」というより「略図」に近いもの
しかし、この裁判員裁判でも、ご遺体の写真は裁判所が頑なに拒否し、イラストに代替された(イメージ図)。「イラスト」というと、実際のご遺体をリアルに再現したようなものを想像するかもしれない。しかし、実際に裁判で提出されるのは、「イラスト」というより「略図」に近いものである。
この「イメージ図」を見て、佐藤さんが話したようなご遺体の状況を想像できるだろうか。しかも、被告人は法廷で、「そんなに強く殴ってない」「まさか死ぬとは思わなかった」と口を揃えて供述した。佐藤さんは、被告人の供述と「イメージ図」を合わせてみると、「『たいして強く殴っていないのに、たまたま死んじゃったんじゃないの?』と裁判員に思われたら嫌だな、と思いました」と述べている。
佐藤さんの指摘は非常に当を得たものである。こういったイラストは分かりやすいので、頭に入りやすい。一方、解剖医が証人として、ご遺体の状況を証言したが、いかに分かりやすく説明しようとも、「循環障害」「電解質異常」「腎機能障害」「呼吸機能障害」などの言葉は頭に残りにくく、その説明とご遺体の実際は結びつきにくい。法廷で、専門家から聞きなれないことを数十分聞かされる方が、負担に感じる裁判員もいるのではないか。
実際、裁判員の中には、「ご遺体の写真を見たかった」と感想を述べる人もたくさんいるのだ。
この事件では、加害者の執拗性、残忍性等を立証するためにも、ご遺体の写真そのものが採用されるべきであったと思う。
小学生の姉妹がうつ伏せで重なり合って……
ペルー人の男が6名を殺害した熊谷連続殺人事件で、家族3名を殺害された加藤さんは、心情的にご遺体が発見された際の写真を見ることができなかった。しかし、警察から状況の説明は受けている。
奥さんの美和子さんは、自宅1階リビングのクローゼットの最下段で、仰向けで両足を折り曲げた状態で見つかった。
長女の美咲ちゃん(当時10歳)と二女の春花ちゃん(当時7歳)は、2階寝室のウォークインクローゼット内で発見された。2人ともうつ伏せで、美咲ちゃんの上に春花ちゃんが重なっていた。
警察がご遺体を発見した時、3人とも亡くなっていたが、美和子さんは死後硬直が始まっており、美咲ちゃんと春花ちゃんはまだ温かかった。したがって、最初に亡くなったのが美和子さん、後で美咲ちゃんと春花ちゃんはほぼ同時刻に亡くなったとみられる。