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「最期のまなざし」を描いた絵画作品も

 エヴァ・ファブレガス《からみあい》も、出逢ったが最後、忘れられない作品になる。巨大なオブジェなのだが、まるで人体の腸をかたどったような形態をしている。色合いは明るいのが救いとなって、グロテスクな印象はさほど感じない。

 人の身体にとって気持ちのいいかたちや触感とはどんなものかを探った末に、こんな作品が出来上がったのだという。触れてもオーケーなので、この腸の上にたくさんの人が腰掛けて休んでいる姿はなんとも微笑ましい。

 

 インゲラ・イルマン《ジャイアント・ホグウィード》も立体作品だ。ジャイアント・ホグウィードとは、中央アジア原産の植物の名前。19世紀に観賞用植物として世界に広まるも、樹液には強い毒性があるのだという。美しさにはしばしば毒が伴うことを、わかりやすいかたちで提示しているのだろうか。

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 かように体感するおもしろさに満ちた作品が多い中、絵画作品ながら佐藤雅晴《死神先生》シリーズも、強い存在感を発している。

 アパートの呼び鈴や外階段など、身近で些細なものが単純化した色とかたちで描かれる。「これだけは目に焼き付けて覚えておこう」というような強い意思を画面から感じたとしたら、それは正しい。

 

 絵を描いたころ、佐藤の身体は重い病に冒されて、余命いくばくもない状態だった。これら画面には、まさに彼の「最期のまなざし」の数々が描き出されているのである。

 力作の展示ゆえ、観る側もひと巡りするだけでなかなか体力を費やすことになる。心して楽しみに出かけよう。