「スケボーと出会って、変わりました」
ビン・リュー 継父からひどい虐待を受けていたので、幼い頃から自己防衛として頭の中で自分の考えに引きこもって、現実から逃避していました。でも、スケボーと出会って、変わりました。
スケートボードをする時は、その瞬間ごとに全身全霊を集中させないとコケます。いってみれば動く瞑想みたいなものです。それで僕は自分の肉体に戻ることができました。スケボーは一種のセラピーでした。
アグレッシブにスケートすれば自分の中の攻撃性を吐き出せます。憂鬱や悲しみもスケートで忘れられるし、恐れや不安をスケートで克服することもできます。そういった感情をスケボーに集中させるんです。
映画作家を目指すきっかけは?
ビン・リュー 14歳の頃からビデオで自分や友達がスケボーするのを撮影していましたが、映画を作りたいと思ったのは、15歳の頃、ある映画を観たからです。
ひとつはハーモニー・コリン監督の『ガンモ』です。
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『ガンモ』(1997年)は、アメリカの貧しい田舎町で、猫を殺して肉屋に売っている少年たちやゴキブリだらけの部屋などグロテスクで殺伐とした日常を描いていく。
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ビン・リュー 『ガンモ』は僕が育ったロックフォードの街の人々の生活を切り取ったみたいでした。これでも映画になるんだと気付かされました。
もうひとつ、影響を受けた映画は『ウェイキング・ライフ』です。
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リチャード・リンクレイター監督の『ウェイキング・ライフ』(2001年)は、俳優たちを普通に撮影した後でデジタル加工したアニメーションで、一人の青年が夢のような世界から目覚めようとして、様々な人々と哲学的会話を交わす。「現実とは?」「人生とは?」
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ビン・リュー 僕はその頃から、人間ってなんだろう? 人生って何? 実存とは? ということを考えてばかりいたんです。
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哲学するスケボー少年とは珍しい。
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ビン・リュー スケートボードしない人はスケボーは肉体的なものだと思っているでしょう。でも、実際はもっと精神的なんです。スケボーの95%は頭でするんですよ。
たとえば技を習得する時、それが自分にできると信じなければ絶対にできない。つまり100%信じることがまず必要なんです。
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『行き止まりの世界に生まれて』は人生そのものだ。予測しなかったことが次つぎに起こり、ひとつの物語に収斂していく。だが、それはどのように作られたのか?
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ビン・リュー 大学で文学を学んだ後、シカゴで映画作りを学びました。ドキュメンタリー映画の現場で働きながら。
そしてロックフォードに戻って、当時のキアーやザックを撮影し始めたんです。その時は短編映画にするつもりでした。3年くらいぶっ続けで彼らのすべてを撮りまくって、5年くらい経って、そこに自分自身を入れなければいけないと考えたんです。