アカデミー賞、エミー賞にWでノミネートされた、トランプ大統領を生んだとも言われるラストベルト(錆びついた工業地帯)が舞台のドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』。

 オバマ前大統領が選んだ「年間ベスト映画10本」にも選ばれ、今のアメリカを映した世界観に町山智浩が迫る。

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典型的なラストベルトに人種の違う3人のスケボー少年

『行き止まりの世界に生まれて』は3人のスケートボード少年の成長を描くドキュメンタリー映画。2019年度のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた傑作だ。

 舞台となるのはシカゴの北西にあるロックフォード市。人口は15万で、いちばんの産業はクライスラー自動車の工場。典型的なラストベルト(錆びついた工業地帯)の街。

 そこに人種の違う3人のスケボー少年がいる。

 一人はザックという白人。命知らずで豪快で陽気。スケボー仲間を引きつけるカリスマ性がある。

 もうひとりはキアーという黒人。抜群のテクニックを持ち、気さくで明るいので人種を超えてザックたちと仲がいい。

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 そしてビンというアジア人。やせっぽちで物静かだがビデオ撮影が得意で、みんながスケボーするのをビデオに撮影する「フィルマー」。彼こそがこの映画の監督ビン・リューだ。

自分自身を含む3人の傷をえぐっていくビン

 3人は大人になり、それぞれの道に進む。ザックは父の工務店で働き、恋人と暮らし、父親になる。キアーはレストランの皿洗いとして働き始め、ビンはロックフォードを出て、シカゴの大学を卒業し、映画作家を目指す。

 だが、3人とも「行き止まり」にぶつかる。

 ザックは恋人を殴り、酒に溺れ、キアーは自分の生きる道が見つからず、ビンも……。

「君はどんな風に育てられた?」

 ビンに訊かれたキアーは答える。

「今でいえば、児童虐待かな……ビン、君もだろ?」

 ザックもだった。

 そしてビンは自分自身を含む3人の傷をえぐっていく。

 

 世界一のプロスケートボーダー、トニー・ホークは『行き止まりの世界に生まれて』を観て「リアルだ」と絶賛している。彼の周りのスケートボーダーにも同じような問題を抱えた人が多かったと。

 しかし、なぜ、スケートボードなのか?

 1989年生まれのビン・リュー監督にインタビューした。