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原題「Minding the Gap」に込められた意味

『行き止まりの世界に生まれて』は音楽が美しい。たいていのスケボー映像にはヒップホップやスラッシュメタルなどハードコアな音楽がつけられるが、ビン・リューは繊細なピアノを選んだ。

ビン・リュー 最初から決めてたんです。豪快じゃなくてエモーショナルな音楽を使いたいと。男性的じゃなくて、女性的な。作曲家に依頼するために仮につけていた音楽は『裸足の季節』(2015年)の音楽でした。

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© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.

『裸足の季節』はトルコ=フランス=ドイツの合作映画で、男尊女卑の伝統に縛られた家族の5人の少女が、親たちに無理やり結婚させられ、性的に虐待され、ついにはそこから脱出するまでを描いている。

『行き止まりの世界に生まれて』の原題はMinding the Gap(ギャップを意識しろ)という。スケートボードでは、路面のちょっとしたギャップ(段差)が転倒につながる。だが、それだけの意味ではない。

ビン・リュー スケボーは頭でするもので、「できる」と信じないとできないと言いましたが、それが「Minding(意識する)」の意味です。「the Gap」のほうは、男と女の間の亀裂であり、子供から大人に乗り越える段差であり、親と子の断絶であり、人生で超えていくべき様々なものを意味させました。

 僕は人生における他のものもスケボーと同じだと思います。頭のなかにあるんです。自分は変われると信じなければ絶対に変われない。大人になれると思えば成長できる。いい恋人、いい結婚相手になれると信じれば、そうなれる。それが最初のステップなんです。

© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.

『行き止まりの世界に生まれて』公開後、キアーはアリゾナ州フェニックスに引っ越してミュージシャンを目指している。また、黒人差別に対する意見を積極的にSNSで発言し、怒りや悲しみを溜め込まないようになった。

 ザックは今はロックフォードでまた父の工務店で働き、結婚して自分の家を持ち、二人目の子どもができて、家庭人になろうとしている。まだ酒はやめてないけど、前ほどひどくないそうだ。

 ビン・リューはアメリカで頻発する銃犯罪についての新作を製作中。

 3人は行き止まりというギャップを乗り越えたようだ。

ビン・リュー Bin Liu
1989年生まれ。19歳のとき、撮影補助として働きはじめ、23歳で国際映画撮影監督組合に参加。2018年に本作で監督デビューを果たし、サンダンス映画祭を含む国内外で59の賞を受賞。アカデミー賞、エミー賞にもノミネートされた。

INFORMATION

映画『行き止まりの世界に生まれて』
9月4日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショー
http://www.bitters.co.jp/ikidomari/