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「スケボーは一種のセラピーでした」乗りながら考えた、行き詰まった人生の乗り越え方

映画『行き止まりの世界に生まれて』ビン・リュー監督インタビュー

2020/09/04
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「『スティーヴィー』と比べてくれてうれしいです」

 ザックとの接し方はシカゴのドキュメンタリー作家スティーヴ・ジェイムスの『スティーヴィー』(2002年)を思い出させる。ジェイムスは故郷の田舎町に帰って、子どもの頃、兄弟のように仲が良かったスティーヴィーという青年に再会して、彼を撮り始めるが、途中で、スティーヴィーが8歳の少女を襲う事件を起こす。ジェイムスは映画作家として友人として苦悩しながら、スティーヴィーの不幸な生い立ちを掘り起こし、「暴力の連鎖」を明らかにしていく。

ビン・リュー 『スティーヴィー』は大好きな映画です。僕はスティーヴ・ジェイムスを手伝って映画作りを学んだんですよ。『スティーヴィー』を連想するのはよくわかります。比べてくれてうれしいです。というのも『スティーヴィー』は、ずっと取材してきた対象が、ひどい行為をしていたと知った時、映画作家はどうすべきか? という問題を描いているからです。

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『スティーヴィー』も『行き止まりの世界に生まれて』もたしかに「暴力の連鎖」についての映画ですが、同時に、自分の友人がその連鎖の中にいたらどうするか、という映画でもあるんです。

 そしてビンはそのカメラを自分の家族にも向ける。自分が長年にわたって継父に虐待されていたのを黙って見逃していた母にインタビューするのだ。

ビン・リュー 僕が撮ってきたフッテージ(未編集の動画)を観た人たちはみんな、僕自身の痛みも見せなければ、と言ったんですよ。だから、これがその解決法なんです。

 ビンによる母親のインタビューはドキュメンタリー映画『ルック・オブ・サイレンス』(2014年)のようだ。1965年のインドネシアでクーデターがあり100万人が虐殺された。それで兄を殺された検眼師アディが虐殺者たちを問い詰める。

「実際に撮ってみたら……きつかったです」

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ビン・リュー でも、実際にインタビューした時に『ルック・オブ・サイレンス』のことが頭にあったかどうか……。『ルック・オブ・サイレンス』って、いつ公開でしたっけ? 2014年? ああ、思い出した。『ルック・オブ・サイレンス』を観てすぐ後に母にインタビューしたんだ。だから影響はあったと思います。

『ルック・オブ・サイレンス』に学んだのは、インタビューには辛抱強さが必要だということです。アディは相手が話し始めるまで、せかさないで黙ってじっと待ちます。その間、表面的には静かでも緊張が高まっていきます。あの沈黙が言葉以上に多くのことを語っているんです。

 ビンも母に「なぜ虐待を見逃していたの?」と問いかけて、じっと待つ。母がいくつか言い訳をしてもビンは黙って彼女を見つめ続ける。ついに母は謝罪しカメラの前で泣き崩れる。それを撮り続けるビン自身も泣いているように見える。

ビン・リュー ええ。撮影する前はけっこう落ち着いていたんですが、実際に撮ってみたら……きつかったです。当たって砕けろみたいに度胸を決めてたんですけどね。あんなにつらくなるなんて……。