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親会社に忖度しない組織改革を

 タイガースは2005年を最後にリーグ優勝から遠ざかっている。

 今年もライバルの巨人に叩かれて低迷し、野崎たちが挑んだ11年間の「ぬるま湯組織」改革もまた忘れられようとしている。

 彼は阪神電鉄航空営業本部旅行部の旅行マンからタイガース常務に出向を命じられた反骨者で、やがて社長に就き、チケット販売のコンピュータ化や商品販売の効率化、テレビ放映の拡大を続けて、300万人台の球場観客動員数を記録した。そして、編成部やOB派閥、時にはオーナーや親会社までも敵に回して、2003年に18年ぶりに優勝を遂げている。だが、このままだと、今オフには再び、矢野燿大監督の責任を声高に叫ぶOBや記者が現れるだろう。

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 その野崎は「監督を悪者にして逃げてはいけない」という。

 彼の持論は、選手たちを指揮、指導する監督・コーチングスタッフ、それに球団最大の経営資源である編成部門、そして経営陣の三者が力を発揮して初めてチームが機能し勝利へと向かう、という三位一体論である。

「ところが、監督がダメだからと切り捨てると、編成部門や経営陣は楽ですわ。ファンの留飲は下がっても、編成部門や経営陣の責任はどこかに飛んで行く。そして、一度叩き直したダメ虎を再び沈ませている。資金がありながら、これだけ長く低迷しているのはなぜか、と考えなければならんのです。腹を据えて、親会社に忖度しない組織改革を、中長期的に続けるしかないですわな」

©iStock.com

球団は小さな会社組織だからこそ、総合力で勝ち抜く

 その理屈は、球団を一般企業の視点から見るとわかりやすい。

 例えば、新型コロナウイルスの感染拡大で経済が減速しても、トヨタ自動車はなぜしぶとく強いのか。自動車各社が次々と大幅な赤字に転落したのに対し、トヨタは2020年4〜6月期連結決算で1588億円の最終利益を計上している。国内7つの自動車大手で同期に最終黒字を計上したのは他にスズキがあるだけだ。

 トヨタは、「カイゼン(改善)」という言葉と、無駄を究極まで省いたトヨタ生産方式で有名だが、生産現場だけでトヨタの強さが成り立っているわけではない。今回の黒字確保の理由について、コスト削減の徹底や中国業績の堅調が挙げられているが、そもそも、組織の中心に豊田家の求心力があり、巧みな人事政策があり、世界中に張り巡らした販売網があり、「製品の社長」と呼ばれるチーフエンジニア(CE)たちがいて、それを動かすシステムがある。

 ちなみに、CEは新車の企画からデザイン、設計、宣伝、販売に至るまで、すべてを統括する技術部門の要職で、他社が取り入れようと試みた、トヨタ伝統のユニークな制度である。

 さらに、彼らのモノづくりを支える、デンソーなど関連会社群があり、毎年、最新技術や部品を持ち寄った巨大な展示会がトヨタ本社で開かれてきた。そして、優秀な関連会社の社員はトヨタ本社に出向させて、全体の車づくりを学ばせる長期研修が繰り返し行われている。

 トヨタの強さとは、こうした関連会社群を含めたグループの総合力に他ならない。

 プロ野球の球団は小さな会社組織だからこそ、監督一人の力量をうんぬんする以前に、球団組織全体を活性化させ、営業を含めた総合力を押し上げて勝ち抜かねばならないはずだ――野崎はそう力説するのである。