メジャー流のベースボール・オペレーション・システム(BOS)
彼はタイガース社長に就任すると、デトロイト・タイガースのGM(ゼネラルマネージャー)補佐を務めた異能の吉村浩(現・北海道日本ハムファイターズGM)を採用して、その2002年に日本の球団で最初にメジャー流のベースボール・オペレーション・システム(BOS)を開発させた。BOSは一義的には優秀な選手を発掘するためのもので、スカウトやコーチが視察した選手の個々の能力を数値評価してパソコンに入力し、閲覧するシステムである。
ところが、彼らが構築した阪神BOSは、編成部など守旧派の強い抵抗を受け、肝心の編成会議などに活用されることがなかった。だから「あったことは知っているが、使われなかったから、あれは開発したことになるんかなあ」という関係者がいるのである。そして、野崎が2004年末で社長を退くと雲散霧消してしまった。
それは構築するよりも、使わせ続けることが難しいシステムだったからである。
BOSを活用するには、まずスカウトやコーチに情報をシステム入力させる必要がある。数値化した情報だけでなく、「スカウト・コーチ日報」のような報告書も毎日のように入力しなければならないから、パソコンを使うことのなかった人々には極めて苦痛だったであろう。そして、この報告を毎日、球団GMら幹部からチェックされ、叱咤激励されるのである。
フロントからすれば、全国の選手情報と評価を球団へ効率良く報告させ、集積して分析できる。そのうえ、現場とのコミュニケーションツールとしても有効なシステムではあったが、古い体質を残したタイガースのベテランスカウトやコーチには、職人の聖域を荒らす無用の道具と映ったのではないか。
このBOSは、ヘッドハンティングされた吉村らによって、ファイターズで実際に運用されたが、このシステムを巧みに活用した球団がほかにもある。福岡ソフトバンクホークスである。
BOSはファイターズの後、巨人で2010年に運用され、その後、ホークスにも導入された。親会社がソフトバンクで資力もあったから、ホークスBOSは簡単に構築できたようだ。問題はいかにそれを効率的に運用するかである。
ホークス球団には当時、能弁の取締役・小林至(いたる)(現・桜美林大学教授)がおり、私は彼らがどう運用するのか、見守っていた。小林は東京大学野球部から千葉ロッテマリーンズの入団テストを受け、後にドラフトでプロ入りした野球狂で、メジャーやスポーツビジネスに精通している。