昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/09/05

論点3. 業界の構造が変わっているのに同じ仕組みで作り続けるのをやめろ

 ある予測では、2020年を通じてNetflixはコンテンツ制作のための予算だけで173億ドル(約1兆8,400億円)を投資すると見込まれていて、恐らく着地のコンセンサスでは150億ドル(約1兆5,800億円)ぐらいだろうとされています。

 けたが大きすぎてイマイチすぐにはピンときませんが、我が国のテレビ局という意味では私たちの大正義・NHK様の放送経費全体が3,460億円(2018年)ほど、うち、真水のコンテンツ制作費は年間2,770億円(同)ほどです。民放はと言えば、日本テレビ放送網が977億円、テレビ朝日が874億円であって、それでも定常放送枠の制作経費が削減されるってことで出演しているタレントギャラを減らそうとか言っているわけですから、まあ太刀打ちできないよねという話でもあります。相手は1兆円ですよ、1兆。

 つまりは、地上波という公共の電波で日本国内津々浦々にテレビ番組を無料で届けて収益を得るというビジネスモデルは凄く優れていたのでずっと伸びてきたけれど、ついに人口減少が始まった、インターネットで気軽に動画も観られるようになったという構造の変化で視聴者をどんどん失っていきました。多くの視聴者に見てもらえる前提で割高な値段で広告を打ってくれていた広告主も、さすがにカネのない中高年男女の娯楽にすぎなくなったテレビ番組にダラダラと商品やブランドの広告を出し続けるほどのお人よしではなくなった、というのが実際ではないかと思います。

(写真はイメージ) ©️iStock.com

海外に進出しなければ

 ただし、それ以上に問題となるのはこういう「日本の制度下で、電波村によって規制された業界が、日本人に向けてスポンサードベースのコンテンツ提供体制を続けていく」ことの是非は、ダイレクトに「世界にいる非日本語話者に対するマーケットをまったく取りにいけていない、後進的で閉鎖的なテレビ局の駄目すぎる経営」を浮き彫りにしたとも言えます。いままで儲かっていたから無理に海外に目を向ける必要がなかったのが、ネット時代全盛の到来とともに自身の収益性が激しく細り始めてから慌てて「海外にも売れるコンテンツを」と言っても、制作資金の調達から品質担保、世界的なコンテンツブランド確立の手段にいたるまで何も手付かずで気づかぬ間に負け組になっていたのだと思うのです。

 かろうじて、日本テレビが早い段階から気づいてディズニーとの取り組みでHuluをサービス開始したものの、結局はすったもんだありなかなか大変なことになっています。フジテレビも独自でFODをやり、各社頑張っているものの結局は自前でやっているテレビ番組の見逃し視聴をネットで再配信できるレベルのビジネスにとどまり、ジャパンブランドのコンテンツを海外配信できるようにしようとか、海外のプラットフォームとの連動を高めて世界的に楽しめるコンテンツブランドを立ち上げようという話にはまったくと言っていいほどなりません。日本語を話す日本人による日本市場で十分な収益を得てきたことが、仇になるというのはこういうことなんだろうと思います。

 結果として、海外市場でのコンテンツ配信においては、むしろいままでさんざん馬鹿にしていた韓国のエンタメ業界に負けて後塵を拝することになってしまいました。当たり前のことですが、韓国の人口はざっくり日本の半分。海外に出ていかなければやっていけない規模の経済であり、かたや日本のテレビ局はいままでずっと日本市場だけでも十分に稼げる優良企業であると同時に不動産収入も各社大きいので危機感を抱かぬうちに海外にボロ負けしてきた経緯があります。

 モーリー・ロバートソンさんがテレビ局の体たらくを説明している内容で、読んでいる私が「ああ……」と膝打ちしたのはこういう議論を出演者に過ぎないモーリーさんが書いて、しかもそれがSNSではそこそこ評判になって多くの人に読まれていてもなおテレビ局は変わらないのだろうなあと感じるわけでして、なかなかシビれます。