先月28日、福岡市の商業施設にて、15歳の少年が買い物客の女性を殺害する事件が発生した。福岡県警などの発表によると、少年は現場で包丁を盗んだ後に、面識のない被害者女性の後をつけ、女子トイレにてわいせつ行為におよぼうとしたところ抵抗されたため、この女性の上半身数カ所を包丁で刺したとされる。

 また、その直後には6歳の女児とその母親に包丁を突き付け、さらに逃げようとして転倒した女児に馬乗りになっていたところを、その場に居合わせた男性によって取り押さえられた。 

事件が起きた商業施設 ©共同通信社

 この事件を受けて、SNS上では、「フェミサイドではないか」という多数の声があがった。こうした声が聞かれるのは、被害者を「ランダムに」選んで殺害する無差別殺人として、この事件が報道されてしまうことを危惧するためだ。

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 この事件は「わいせつ目的」、すなわち女性に性的暴行を働こうとして失敗し、殺害したものであるため、殺されたのが女性であったことは決して「ランダムな」選択の結果ではない。言い換えると、「被害者が女性である」という事実が、この犯行の理由・原因の重大な要素を占めている。 

 日本ではあまり聞き慣れないフェミサイドとは、以下で見ていくように、まさにこうした性質をもつような殺人事件を社会問題として取り上げるための概念だ。

 本記事では、今、国境を越えて多くの国で女性たちが連帯する際のキーワードにもなっているこの概念を紹介することで、福岡で起きたこのおぞましい事件を理解するための一つの視角を提供したい。 

「フェミサイド」と名付けることで見えるもの

 フェミサイド(femicide)とは、ラテン語に由来する、「女性」を意味する「femi-」と、「殺す」を意味する「-cide」が組み合わさった言葉だ。この言葉自体はずっと以前から存在していたものの、はじめてその言葉の意味をより明確にして、批判的に用いたのは、フェミニストのダイアナ・ラッセルとされる。 

 彼女はフェミサイドという言葉を「(被害者が)女性であることを理由とした、男性による女性の殺害」として定義しなおすことで、単に女性が被害者なだけでなく、そうした殺害が性差別的な理由に基づくものだということを強調した。

©iStock.com

 ラッセルによると、このような性差別的な殺人行為としてのフェミサイドにはさまざまな種類があり、1)女性への憎悪、2)女性は劣位だという感覚、3)性的快楽の追求、4)女性を所有しているという思い込み、などを動機としている。 

 このようなフェミサイドの概念は、1980年代以降徐々に浸透していき、今日では、世界保健機関や国連の一部機関(UNODC)をはじめ、さまざまな国際機関が女性の殺害という地球規模の問題に取り組もうとしている。