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 SNS上では女性たちが、殺されたのは自分だったかもしれないという意味で「#偶然生き残った」というハッシュタグを用いて書き込みを行い、韓国社会におけるフェミサイドの存在が可視化された。こうした一連の動きは、保守的な男性たちによる激しい抵抗を呼びながらも、韓国でフェミニズム運動が拡大する重大な契機となった。

パリの街角で見かける新しい抗議運動 

 フランスにおいても、フェミサイドは社会問題となっている。フランスでは特に、男性による配偶者や恋人女性の殺害という、いわゆるDV殺人が深刻であり、政府はさまざまな対策を打ち出してきたが、全く解決には至っていない。これに抗議をするために大規模なデモ行進なども行われてきたが、特に興味深いのは1年ほど前からパリの街角のあらゆるところで見かけるようになった新しい手法だ。 

「パトリシアは彼氏に殺された、14人目のフェミサイド」とある(筆者提供)

 一文字ずつ書かれた白い紙をタイルのように並べて貼り、ひとつのメッセージが完成する。最初の頃は、フェミサイドにより命を奪われた女性について述べたものばかりだったが、最近ではフェミニズム関連の多様なメッセージを発信している。単なる抗議活動を超えて、ストリートアートとしての側面も併せ持つこれらは、新型コロナの影響で閑散とするパリの街頭に新鮮な風を吹き込んでいる。 

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「暴力の犠牲者よ、あなたに責任はない」とある(筆者提供)

 

日本は殺人被害者の女性比率が世界で最も高い国の一つ

 さて再び日本に目を向けると、こうした国々と比べて、フェミサイドに対する抗議の声はまだ決して大きくない。警察庁の最新のデータよると、世界的に見て殺人件数が少ない日本では、殺人によって命を奪われる女性は100万人当たり3人以下と非常に低い水準となっている。

 しかしながら懸念すべき点として、殺人事件の犠牲となった319人のうち女性は181人と過半数を超えており、日本は被害者の女性比率が世界で最も高い国の一つとなっている。

 今回、福岡市で発生した残酷な女性刺殺事件によってあらためて明らかになったように、日本社会にも確かにフェミサイドが存在する。先にも述べたように、悲劇的な事件の犠牲となる女性をひとりでも減らしていくためには、このような犯罪を一部の人間の暴走だとして目を背けるのではなく、日本社会全体の問題として捉えなおしていくことが重要だ。そのためにもフェミサイドという概念が、より一層浸透していくことに期待したい。