チームリーダーのスティーブ・モロスキーと一緒に、ブライアントパークにあるセールスフォース・タワー・ニューヨークから、ミッドタウンのJPモルガン本社まで15分ほど歩いた。
JPモルガンが入っているパークアベニューの高層ビルに着き、近くのホットドッグスタンドで買ったサンドイッチを急いで食べながら、セールスフォースのテクノロジーをチェースの消費者金融部門のネットワークに導入するアイディアについて、スティーブに説明してもらった。申し分ないセールストークで、彼のプランに私は満足していた。
ところが、長いマホガニーの会議テーブルを囲んで座ってみると、私の意気揚々とした気持ちはすぐに警鐘に変わり、やがて失望へと転じた。セールスフォースがそのプレゼンテーションに送り込んだ営業担当者は全員男性だったのだ。打合せの直後に、私はスティーブに短いメモを渡した。「なぜ君のところには、女性の営業担当者がいないのか」。その後、私は夕食会に向かった。
無意識の偏見をなくす努力の恩恵
スティーブは、私のメモ(彼は後日「ラブレター」と呼んでいた)を受け取った後、直ちに急拡大中のチームに、今後のメンバー選定でいくつかの変更があることを伝えた。「世の中にいる最も優秀な女性候補者を採用する」。それ以降、スティーブは頻繁に女性のアカウントマネジャーに大手銀行や証券会社でのセールスプレゼンテーションを任せるようになった。
私が好んで使うデータを見ると、彼のエンタープライズバンキングチームの65人の営業員のうち女性はわずか16%だったが、現在は37%になっている。また以前は、女性リーダーは皆無だったが、今は3分の1を占めるようになった。
男女平等をノルマ化してはならない
チームに対するスティーブのコメントは、私たちの平等へのアプローチにおける重要なポイントを押さえている。ノルマを達成するためだけに、女性を採用すべきではない。しかし、その役割に最適だと思われる優秀な女性候補者を見つけるために一層の努力をして、採用プロセスから無意識の偏見をなくすべきだと、声を大にして言いたい。
同一賃金にするプロセスは簡単でも、安上がりでもなかった。3回目の給与アセスメントの後、総額870万ドルをかけてジェンダー、人種、民族に基づく賃金格差を是正することになった。しかし、その成果はすでに計り知れない形で表れ始めていて、その恩恵は何年も続くだろう。