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「彼女を軽んじたことになるわ」 男女差別の原因は“無意識の偏見”かもしれない

『トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考』より #2

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「男性にはしないのに、なぜ女性にはハグをしたの?」

 2017年3月にセールスフォース本社で行ったイベント期間中に、私は新製品のロードマップを紹介するセッションを開いた。聴衆はリポーター、アナリスト、顧客、そして、何千人ものライブストリーム視聴者だ。セールスフォース創業18周年記念も兼ねていたので、妻のリンも同席していた。

 スピーカーは4人で、全員がセールスフォースの経営幹部だった。最初の3人は男性で、私が1人1人をステージに呼び、握手して感謝の意を伝えた。ただし、4番目のスピーカーである女性が登壇したとき、私は軽くハグして迎えた。

 セッションの後で、リンが私を脇に引っ張っていった。「あなたは男性にはしないのに、なぜ女性にはハグをしたの?」と、リンは言った。「彼女を軽んじたことになるわ。全員プロフェッショナルなのよ」

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 もちろん、リンの指摘は正しかった。女性幹部への扱いが違っていたにもかかわらず、私はその瞬間まで、その事実に1ミリも気づいていなかったのだ。

 無意識の偏見は、ありとあらゆる形で表れる。とりわけ、歴史的に男性が牛耳ってきたテック業界ではその傾向が強い。デュポンの元CEOで、2030年までに職場での男女平等を完全に実現することをめざす強力なビジネスリーダーの組織、パラダイム・フォー・パリティーの共同議長のエレン・クルマンは以前、私にとって励みになると同時に、ややもすれば怯んでしまう発言をしていた。

女性の擁護を行う「男性」という構図

「企業社会では男性が指導的役割の大部分を担ってきたので、女性の擁護とメンタリングにおいても、男性が重要な役割を果たしている。あなた方が職場を平等にするまでは、何をやっても結果は同じでしょう」

 メンターシップは良いものだと私は常々思っていたので、社内の有望な女性人材を対象にメンタリングプログラムを試験的に行うよう、シンディに熱心に勧めた。しかし、受講者のフィードバックを見ると、予想とは違う反応だった。そういうお金のかけ方は評価しつつも、女性だけのプログラムへの参加は望んでいなかった。(良い意味ではなく)選別され、まるで矯正すべき人間であるかの印象を受けるというのだ。