男女平等という言葉が謳われて久しいが、いまだにその理想が果たされた社会が到来しているとは言い難い。2020年に発表された「世界ジェンダ―・ギャップ報告書」(世界経済フォーラム)によると、世界153ヵ国のうち日本は121位。G7参加国の中で最下位という不名誉な位置づけとなっている。時代が移っても、不平等はなぜ残されたままなのか。原因は無意識の偏見にあるかもしれない。
平等性にコミットすることで、ピープル誌の「配慮のある企業」ランキングで2年連続1位を飾った「セールスフォース・ドットコム」すら、かつては、労働の対価として“公正”に評価された同一賃金が支払われていない状況にあった。そんな事態をどのようにして乗り越えたのか。会長兼CEOを務めるマーク・ベニオフ氏の著書『トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考』(東洋経済新報社)より、人事責任者を務めるシンディ・ロビンズと共に取り組んだ施策、そして、男女平等な環境をつくるために大切なポイントを紹介する。
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「なぜ、君のチームには女性がいないのか」
その後数カ月間というもの、ロサンゼルスにある女優のパトリシア・アークエットの家で開かれた夕食会、東京でのイノベーションサミット、ホワイトハウスなど、あらゆる場所で、私は同一賃金の話をした。だからシンディが再び会いに来たとき、私がどれほど驚き、恥ずかしい思いをしたか、想像がつくだろう。
最初の監査で300万ドルの修正対応をした1年後に再び試算したところ、前回の監査以降、報酬が大きく下がった従業員の給与を調整するために、さらに300万ドルを投じる必要があることがわかったのだ。「これはどういうことか」と、私はシンディのチームに尋ねた。
この数値がおおむね成長の結果だと知って、少し胸をなで下ろした。セールスフォースは直近で24社を買収し、企業規模が約17%拡大していた。その過程で、買収した企業のテクノロジーだけでなく、給与制度や企業文化も引き継いだため、人種や民族だけでなく、ジェンダーで過小評価されていた従業員の割合が、前年の6%から11%に増える結果になったのだ。
これは繰り返し起こる問題だと気づいたので、私たちはより厳格な対策を講じることにした。新しい職務規定と基準を考え出し、それを新たに買収した各社に適用し、同様の仕事をする人にはすべて、統合したその日から同一賃金が得られるようにする。それを手始めに、シンディのチームは各社での格差根絶に向けて昇給率、ボーナス、株式の付与、昇進制度も見直し始めた。
これらの方針の是正には多少の手心を加える必要があったが、最終的にセールスフォース内で統一された。2018年、シンディと私はニュース番組「シックスティ・ミニッツ」に招かれ、レスリー・ストール記者から同一賃金プロジェクトについて聞かれた。
この番組に出演することで、他のCEOが自社の給与制度を調査するきっかけになればよいと、私は考えていた。私たちは、今日のビジネスでは多くのことと同様に、平等の要求水準は常に変わっていくという現実や、この取組みがまだ道半ばだと承知していることを話した。
その好例が、2018年初めに、私が金融サービス担当の営業チームに同行して、顧客先のJPモルガン・チェースを訪問したときだ。私は通常、こうした打合せには顔を出さないが、その晩、JPモルガンのCEOのジェイミー・ダイモンが主催する夕食会に出席する予定だったので、同行することにした。