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「我が子のことは親の自分が一番分かっている」という幻想

(事例5)
母「うちの子は10年引きこもっていて働いたことはないんですが、働きたいと言っているので、就活のサポートをして欲しいんです」
スタッフ「就活ではなく、寮などでゆっくり体験を積むところから始める方がいいんじゃないですか?」
母「いえ、やる気はありますから、きっかけさえあればできるはずなんです」

 特に母親に多いのですが、「我が子のことは自分が一番分かっているから、他人のアドバイスは参考程度にしか聞かない」という感じで相談に来られる方がいます。自分の予想と違うアドバイスが来ると反論するか、耳を閉ざしてしまいます。

 どんな行動を取った、どんな言葉を言った、親にはこう考えているように見えるなど、親から聞く話はもちろん大切です。ただし、そこからどう判断するかは、引きこもりに関する知識や支援経験の有無でかなり違ってきます。ですが「ずっと見てきたのは自分」という気持ちを、親はなかなか捨てられません。もちろんそこに強い愛情を感じるのですが、逆に愛情によって客観性が失われた話になることもよくあります。

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 更に親に社会経験がないと、子育ての経験だけから話をする傾向が強くなります。例に挙げたようなケースでは、「じゃあご自分の会社に同じ経歴の方が来たら、採用しますか?」と聞くと、父親はほぼ全員が黙って「いきなり就活できるはずがない」と気付くのですが、ずっと専業主婦かパート勤務だった母親はピンと来ない顔をします。

 また、本人が親にどこまで本当の姿を見せているか、という問題もあります。いざ支援を始めて本人に会ってみると、「面談で親から聞いていたイメージとだいぶ違うな」と思うことがよくあります。

 そもそも考えてみてください。20代30代になって親に全ての姿を見せ、気持ちを全て話している人が、どれだけいるでしょうか? 親子の間には、時に駆け引きが生まれます。引きこもって長い時間が経ち、仕事を始めることに恐怖心が湧いていたりすると、何とか家の中に居場所を確保するために嘘をつく、なんてことは普通にあります。

 例に挙げた「本人は働きたいと言っている」も、いざ仕事を紹介すると尻込みして逃げてしまう程度の気持ちかも知れませんし、こう答えればそれ以上は何も聞かれなくて済むから言っているだけ、という可能性もあります。

 親が見ているのは我が子のほんの一面に過ぎません。だから外側からの客観的な意見が大切なのです。