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「引きこもりのほとんどは発達障害」って本当? 引きこもり支援のプロが語る”ボーダーの生きづらさ”

『コンビニには通える引きこもりたち』より#2

2020/09/15
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発達障害と病気が混在すると判断が難しくなる

 ツネオ君(仮名)は21歳。子どものころから相手に合わせられないタイプでした。物の考え方にも、こだわりがありました。会話がどうしても一方的なものになり、小学生の頃からいじめにあったようです。中学では不登校になり、高校は通信制を選択。集団の中にいるのが難しいからと、サポート校に他の子と時間をずらして通い、先生とほぼ1対1で面倒を見てもらい、何とか卒業しました。

 卒業後はバイトをしようとしましたが、本屋など自分が好きで行くお店ばかりに応募します。接客業になるので難しいと親は止めたのですが、本人は聞き入れません。案の定受からない、受かっても続かない、の繰り返し。そのうち引きこもりが始まり、もう2年になります。コンビニや散髪程度の外出はしています。父親のことは避け、母親とはよく話します。ただ気に入らないことがあると母に声を荒らげることもあります。怒る理由は、好きな食べ物がないなど、子どものようなものです。

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 問題は、家の中で声が聞こえる、うるさい、などと言っていることです。幻聴の症状があると思われます。この状態で病院に行くと、統合失調症の診断を受ける可能性が高いでしょう。薬も出るものと思います。そうして治療をすれば引きこもりから脱出できると親御さんが勘違いすることがありますが、実際はそうは行きません。「薬が効かない」と通院をやめてしまう方もいます。

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 確かに今は統合失調症の症状が出ており、その治療は大切です。ですがその根底には、恐らく発達障害があります。周囲とうまくいかず引きこもるに至った原因は、発達障害によるコミュニケーションの難しさであり、統合失調症はその二次障害だと考えられます。ですから、統合失調症だけを治療しても、会話が一方的な状態がそのままなら、人の中でやっていけず、バイトなどができるようにはなりません。

 病気だけでも発達障害だけでも、対応はぐんと難しくなります。ところがその両方の傾向がある方が、実はとても多いのです。発達障害がある方は、抱える生きづらさからストレスが多く、病気を発症しやすいのかも知れません。

 親御さんがそのことに気付いていないことも多々ありますし、通院していても発達障害の話は全くされていないという方もいます。発達障害の話は、当人が疑って、そうではないかと聞くまでは、医者の側からは検査をしましょうとは言えないのかも知れません。そう思えるほど、「発達障害の可能性もありますから、今の症状が落ち着いたら検査をしてみる方がいいですよ」とお伝えすると、驚かれる方が少なくないのです。