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空手で金儲けをしない

「おお、本当か。ありがとう。身内の者だとどうしても甘くなってしまう。本気で厳しく教えてほしい。しごいてほしいんだ。指導料はいくらほしい?」

 そう問われた瞬間、高校3年の暮れ、極真会館の月謝を数カ月滞納し、大山倍達から「きみはすごく空手が好きなんだろう。月謝なんて、お金があるときに払えばいいんだ」と言われたことを思い出す。

 山崎には空手で商売しない、金儲けをしないという持論がある。

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「お金はいりません。でも教えて納得いかなかったり、選手が付いてこられなかったりしたら辞めさせてもらいます」

 金銭をもらわない代わりに好きにやらせてもらう。決して譲ることのできないポリシーだった。山崎の回答を聞き、植田は驚きの表情を浮かべ、再び確認した。

「本当にお金はいいのか?」

「金はいりません」

「分かった。ぜひお願いしたい」

山崎(右端)との初めての合宿で、指導を受ける長与千種とライオネス飛鳥、1983年8月 提供・山崎照朝氏/東京新聞

「でも、選手のやる気次第では本当に辞めますよ」

「それでいいからお願いしたい」

「少し(大山)館長に相談させてください」

 すぐに東京・池袋の極真会館本部道場へ行き、師である大山を訪ねた。

 極真会館に稽古で通わなくなってから10年近く。それでも何かあれば仁義を通す。全女は「極真の第1回全日本チャンピオン」という看板を欲し、「極真王者から空手を伝授された長与&飛鳥」という構図を必要としていた。

 山崎は師に事情を説明した。

「館長、女子プロレスのコーチの話が私にありまして、極真の第1回全日本王者として教えてほしい、と。極真の名前を使用することになると思います」

 大山の返事は滑らかだった。

「きみが『いい』って言うならいいんじゃないかね。プロレスラーは人間関係でいろいろあるんだ。もめ事もあって大変だぞ」。若かりし頃、米国でプロレスの経験がある大山はそれだけ言うと、山崎の申し出をあっさり許可した。

 この瞬間、のちに「クラッシュ・ギャルズ」と呼ばれる長与&飛鳥の特別コーチ・山崎照朝が誕生した。