「道場では北と南が仲悪いんだよ」
―― 山崎さんが記者として『東京中日スポーツ』に石橋先生の訃報の第一報を書いたんですよね。石橋先生は役者としての知名度がありましたからね。
「息子さんから連絡があったんだよ。あんな紳士な人はいないよな…。石橋先生は殺陣師だよな。殺陣師というのは強いと思うんだよ。実戦でも強い。遠心力を使って、回転して殴ったり、回っての技が多いんだ。中国武術もそうだけど、回転しながら武器を使い、技をかける。そういう回転する技が石橋先生にはあったな」
―― それを石橋先生が教えてくれたと。
「そう。力だけじゃないってことだな」
―― 石橋先生の他にも一緒に稽古をしていた大山茂さん、岸信行さん、佐藤俊和さんも亡くなりました。すごく寂しいですよね。
「そういう年になっちゃったな。みんな酒が好きなんだよ。当時、飲まないのは俺と添野(義二)、及川(宏)くらいだな。極真の三羽がらすは飲まなかった。大山茂先輩からは可愛がってもらったし、気が合った。先輩は在日韓国人だけど、日本人でも分け隔てなく接してくれてな。聞いてもいないのに、朝鮮人と日本人の見分け方を教えてくれたり、朝鮮学校や自宅に招いてくれたりしてな。朝鮮学校では俺の顔を見て、びっくりしている人もいた。ああ、懐かしいよ。当時はいろいろあったからな」
―― いろいろと言いますと?
「道場では北と南が仲悪いんだよ。大山(倍達)館長から館長室に呼ばれてさ。『きみ、なんであいつらは同じ民族なのに仲が悪いのかね』って俺に言うんだよ。そこで俺もそういうものなのかなと思ってな。確かによく見ていたら、組手になると喧嘩になっていたな」
―― あとは芦原英幸さんのことも強調されていましたね。インタビューが掲載された雑誌などで誤解されていると話していました。
「要するにね、芦原先輩の凄さを知らない。道場では当てっこなんだよ。顔面、金的、急所でもいい。反則というのは技なんだよ。反則だから使わないというのはその人の考え方。だけど、反則も技と考えたらそれを極めるのが一番強い。そういう論理。組手を教えてくれたのが芦原先輩。顔面や金的をすぱっと蹴る。百発百中でできる人はいない。外れたら、反動がある。相手は『汚いことをやりやがって』と向かってくる。そのリスクも計算の上でやるから。そういうのをさらっとやるのが芦原先輩。普通の技のようにやるんだよな」