「一体どうしてこういうことになったの? 白状しちゃいなさいよぉ」
黒崎(片岡愛之助)が、半沢(堺雅人)と渡真利(及川光博)に厭らしい表情で詰め寄る。これに眉間にシワを寄せ答える半沢。
「放送に間に合わせるべく全力で挑んでまいりました。しかし、感染を予防しながらの撮影で、どうしてもスケジュールが延びてしまい、今日の放送を見送らざるを得ないことになりました」
そんなしっかりと作りこんだ“半沢コント”から始まったのが『生放送!!半沢直樹の恩返し』(TBS)だ。第8話の撮影が間に合わず、キャスト陣による生トーク番組に差し替えられたのだ。笠松役の児嶋一哉からは「あれを撮る時間があったら本編撮れるんじゃない?」という当然のツッコミが入るが「恩返し」というタイトル通りのサービス精神だろう。もし、一昔前のようにレギュラーのコント番組があれば間違いなくパロディコントが作られていたであろうドラマだが、それを本人たちが全力でやってしまうのだからスゴい。
半沢の「お・ね・が・い・し・ま・す」や大和田(香川照之)の「おしまいDEATH!」がやはり台本にはなく役者と監督で作り上げたものだったという話など裏話満載。通常、「テスト」ではカメラは回さないが、『半沢直樹』チームは、テストやリハーサルも本番さながらのテンションでカメラを回すという。最初から「DEATH!」を入れようと考えていた香川だが、1回目のテストから出すのは「頃合いが良くない」と、3回目くらいから出し始めたという話は役者同士の真剣勝負感があって痺れる。もはやコメディと紙一重な過剰な演技に「そのたびに崩れ落ちてました」と振り返る堺。「DEATH!」を受けたあとの未公開映像で笑いをこらえきれず「試練だ……。試練のシーズンが始まった」とつぶやいていたのが印象的だ。
よくこのドラマは「半沢歌舞伎」などと形容されるが、曾根崎(佃典彦)を半沢と大和田が「さあ」「さあ」「さーアサァサァサァ!」と問い詰めるのは、歌舞伎の「くりあげ」という手法を模したもの。これを片岡愛之助と香川照之が一緒に解説するというのもなかなか見られないものだ。本来は問い詰める側と詰められる側が掛け合うのだが、台本では大和田だけの台詞になっていた。これを堺の提案で味方同士で割るというアレンジが加えられたという。こうした技術的な裏話はテレビではあまり語られることはないし、知らなくてもいいことだ。だが、知ればますます見方が広がっていく。今や裏から見ることは普通になり、視聴者の「マニアック」の基準は変わっている。今回は怪我の功名的に生まれた番組だが、もっとこういう番組は増えていいはずだ。
『生放送!!半沢直樹の恩返し』
TBS系 9/6放送
https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/