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「どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた」 作家・岸田奈美が休職とうつ状態から立ち直ったきっかけ

「どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた」 作家・岸田奈美が休職とうつ状態から立ち直ったきっかけ

2020/09/21
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 誰かの一言で、立ち直れないほど落ち込んでしまった経験、ありませんか? 身近な人の言葉で心身が不調になってしまった経験をもつ岸田奈美さん。岸田さんが立ち直るきっかけとなったのは、弟・良太さんのある行動でした。ダウン症で知的障害のある良太さんが、岸田さんの気持ちを奮い立たせます。そんな話が記された、岸田さんの著書『家族だから愛したんじゃくて、愛したのが家族だった』(小学館刊)から、「どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた」を紹介します。

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働くことができなくなった

「心身の不調」というのがある。前に一度「身心の不調」と書き間違えた。でも、これは心身が正しい。その漢字の順番通り、わたしはまず、心の調子が悪くなり、そのあとすぐに、体の調子も悪くなった。言葉というのはうまくできている。

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 そんなわけで、大学生のときから、10年ずっと勤めていた会社を、はじめて休職した。

 休職したかったわけではない。

 でも、会社が入っているビルのエレベーターに乗りこんだ瞬間、気づいたら床に座りこんで、息ができなくなっていた。悲しくないのに涙がぼろぼろこぼれた。

 これは、もう、アカン。そしてわたしは働くことができなくなった。

©️iStock.com

 しかし2か月後には、会社へ華麗に舞い戻っていた。それから1年後に会社を辞めるまで、わたしは休職する前以上に、元気もやる気も満々で働くことになる。

 そのきっかけになった話を、少しだけ。

 休職の2か月間、なにしてたかっていうと、寝てた。陸に打ち上げられたトドのようだった。でもたぶん、トドの方がまだ動いていると思う。

 めちゃくちゃ、疲れるの。なにもしてなくても。

ジェットコースターにふりまわされて

 とにかく気分の浮き沈みが激しくて、自分の心に身体がついていかない。安全バーなしのジェットコースターに乗ってるようなもん。

 落ちたら死ぬので、とにかく車体にしがみついて、ふりまわされるしかないって感じ。

 ジェットコースターへ乗ることになってしまったきっかけは、仕事で関わった、とある人の、とある心ない言葉だった。

 365日中、364日のわたしだったら「ふーん」と一笑して終わってたはずなのに。

 たまたま、その言葉をぶん投げられた日は、ダメな方の1日だった。エアポケットみたいに、ドーンと落ちた。

 1回落ちると、もう、本当にダメだった。お手上げ。

 2年くらい前、わたしと同じような状態だった知人に話を聞いたことがある。

 知人は「必要以上に自分を責め続ける」とか「被害が妄想がひどくなる」とか、自分の心がコントロールできないことに悩んでいた。

 そのときは「大変だなあ」くらいにしか思ってなかったけど、いまになって、めちゃくちゃわかる。わかりすぎる。

 多分、人って、原因がわからないというあいまいで気持ち悪い状態を、本能的にきらうんじゃないかな。

 だから、無理矢理にでも、原因を自分にしちゃうんじゃないかな。

 そういうふうにできてるんじゃないかな。