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「どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた」 作家・岸田奈美が休職とうつ状態から立ち直ったきっかけ

「どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた」 作家・岸田奈美が休職とうつ状態から立ち直ったきっかけ

2020/09/21

自分を責める

 わたしは、とにかく自分を責めていた。

「あの人が心ないことをいったのは、わたしの仕事の能力が低かったからだ」

「自分だけ休んで、みんなに迷惑かけて、わたしは本当にダメだ」

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 毎日、毎日、寝ても覚めても、そんなことを考えていた。

 よろよろとした足どりで、コンビニへご飯を買いに行ったときなんて。コンビニの店員さんがお弁当におはしを入れ忘れていただけで。

「ああ、わたしの態度が気に入らないから、わざとおはしをくれなかったんだ」

 家に帰って、くやしくて、情けなくて、泣きつかれて眠る日もあった。店員さんが気の毒なほど被害妄想もはなはだしいが、本気でそう思っていた。

 それからわたしは、ひまさえあれば、いかに自分がダメな人間かを考えはじめた。そうすることで、落ち込んでいる自分を正当化したかったのかもしれない。

 昔から、すれ違う人によく舌打ちされる。あまりにも舌打ちされるもんだから「大阪の人は怖いなあ」「東京の人は冷たいなあ」「名古屋の人はせっかちだなあ」と、偏見にまみれた地方性のせいにしていた。おろかである。

 これね、実は、わたしの歩き方がおかしかったの。

 前を見ているつもりが、なぜだか向かってくる人に気づけず、衝突寸前。

 まっすぐ歩いてるつもりが、知らないうちに、ななめに歩いてる。

 注意力が散漫で、無意識に遠くの看板を読んだり、走る車をながめたりしている。

 これ全部、同僚から「そんな歩き方してるから、ぶつかるんだぞ」とあきれられて、はじめて自分のせいだと知り、愕然としたわけで。

わたしの言葉は情報過多

 基本的にわたしの発する言葉は情報過多であることにも気づいた。

©️iStock.com

 興味の移り変わりの激しさが3歳児のそれなので、対話でもプレゼンでも、話している最中に、思ったことや目についたことを、突拍子もなく話してしまう。

 営業で30代女性をターゲットにしたサービスの定義の話をはじめたはずが、いつの間にか、カタツムリはコンクリートを食べるという話に変わっていたりする。

 話したいことが、売れる前の五木ひろしの名前並にコロコロ変わる。

 自分では止められなかった。そもそも自覚がなかった。

 空気のおかしさを感じ、ハッとしてしゃべるのを止めたら、周りが苦笑いしている。会社で営業をしたころは、同席していた上司によく「新しい案件のヒアリングなのに、お前ばっかり話してたな」とあきれられた。