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「細かなことですけど、一言一言が大事」

 こういうのはね、他人の落語を聞いていて気づくことがあるし、そのネタを話し始めてから何十年も経って気づくこともあるんです。細かなことですけど、こういう一言一言が大事なんです。

 人に言われて気づいたのは『文七元結』でしたね。

 鈴本で演ったとき、長兵衛の娘のお久のセリフで『身請けされてきたの』と話した。そうしたら、あとで鈴本の社長から『身請け、は大人の言葉で、お久は生娘だから、たとえ身請けという言葉の意味を知っていたとしても、自分で口にするかなあ……』と言われたんです。その言葉遣いで、生娘さがなくなってはしまわないか、と。たしかになあ、と思ったわけです。

 そこで、『なんだかわからないけど……おかみさんがもう帰っていい、というから、このおじさんに手を引かれてきたの』という表現にすれば、特別な言葉はなにひとつないけれど、ニュアンスとして生娘さも、起きた出来事の意味も伝えられますよね。

 こういうアドバイスをいただけるのは、ありがたいなあ、恵まれているなあ、と思うんですけどね。

 あとは、たとえば花魁が『一服吸いなんしぃ……』とタバコを薦める場面があったりしますよね。でも、花魁だからといって、ありんす、ありんすと、それっぽい言葉を無理に使わせすぎると興ざめしてしまう。これもお久の時と同じで、普通の言葉遣いの中で花魁さを出していくほうがいい、と思う。それこそ『わたし、たばこに火ぃつけたから、吸って』と手渡すだけでもいい。

 こまかいことだけど、おいらはそんな気持ちで言葉を選んで話しているんです。

 言葉遣い、ということでいうと、扇辰さんの言葉遣い、いいですよ。口跡もはっきり、鼻濁音もちゃんとしていて、なにより聞きやすい。耳に心地いい落語をやります。あいつなりにいろいろ考えてやってるな、と思いますよ。二人会では、おいらの言葉と扇辰さんの言葉を聴き比べてもらうのもいいですね」

 文蔵師匠はツイッター(@emonkake_b)で日々のことを積極的につぶやいているが、目立つのは料理写真だ。高級レストランの凝った料理、というよりは、ハンバーグだったり卵焼きだったり、いつもの食卓にならぶような、でもいかにも美味しそうな写真が並ぶ。

「そうそう、弟子の(橘家)文太の二つ目昇進のときの口上で、落語と料理は似ている、という話をしました。料理って、上等な食材、素材を使えばたいがいは美味しくなる。でも本当の職人さんは、よくある素材をもとに工夫して、技を凝らしておいしい料理をこしらえる。落語もそっちだと思うんです。なんてことはない話でも、持って生き方、工夫によって爆笑漫談になるし、くすぐりにも使える。今ではやり手が少なくなった、現代人にはウケないとされている噺でも、工夫一つで十分愉しんでいただけるものになるかもしれませんからね」

 さまざまな料理がテイクアウトでお家で楽しめるように、落語も配信興行が定着してきたけれど、料理も落語もできたて話したてをその場で味わってもらうのが一番。

 特に熱量の高い文蔵師匠の落語は、是非会場に足をお運びいただき、熱気ごと味わっていただくと、その面白さは格別だ。

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【公演概要】

文春落語 文蔵・扇辰二人会

公演日:2020年10月7日(水)
公演会場:日本橋公会堂/東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目31-1

出演者:橘家文蔵・入船亭扇辰

開催時間:18時45分開演 (18時15分開場)
終演時間:21時予定 仲入り有 

演目:未定(当日発表)

チケット:4,000円(税込・全席指定)/2階左右3,500円(税込・全席指定)ソーシャルディスタンスをとっての席販売となります。

■チケットぴあ
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2023265&rlsCd=001&lotRlsCd=

■イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/3121570001-P0030009P021001?P1=0175

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