新型コロナウイルスの感染拡大で、多くのエンターテインメントと同様に、寄席やホール落語は休演となり、落語家はその芸を披露する場を奪われてしまった。そんな中、いちはやく本格的な「配信落語」にチャレンジしたのが橘家文蔵だった。

 強面で知られる名跡の三代目は、破壊力抜群の人物描写と威勢の良い口調で人情噺を得意とするが、一方で座長として演劇の脚本・演出を行ったり、「落語協会 大喜利王選手権」のプロデュース・司会を務めるなど、これまでも様々なことにチャレンジしてきた。

橘家文蔵師匠

「いろいろトラブルはありましたよ」

「今年の3月でしたか、コロナが広まるちょっと前に、これまで作っていなかった後援会を立ち上げようとホームページを開設して後援会(文蔵組)を立ち上げたんです。まあ100人集まればいいかな、って。そうしたら世の中がこの騒ぎになって、落語会もどんどんキャンセル、延期になっていった。どうするかなあ、と考えていたら、米粒写経のサンキュータツオに『スタジオから配信落語やったらどう?』って言われまして。そこで4月の初旬に、高円寺にある小さなスタジオから配信をやってみたんです。会費を払ってくださっている文蔵組の会員さんには無料、一般にも販売してね。

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 もちろんいちからのスタートですから、いろいろトラブルはありましたよ。映像や音質は最初から素晴らしかったけど、配信が途中で止まったり、スタジオといっても通りに面しているから噺の途中で車の音とか生活音も入っちゃったり。まあこの際そういう音も含めて楽しんでもらおう、と思って4月、5月、6月と頑張っていたら、ウチのスタッフはみんな優秀なもんだから、技術的な部分もどんどん進歩して、お客さんもついてきてくださって……。今では文蔵組組員、500名以上になりました」

 演者として、配信落語への戸惑いはなかったのだろうか。

「僕らは普段、高座のはじめに客席を見渡しながらまくらを話すわけです。ちょっと愛想笑いとかしながらね。でも同じようにカメラの前でやっていたら、配信を見てるお客さんから『目がオロオロしてて、なんだか戸惑っているように見える』と言われちゃいまして。だから、まくらの時はニュースキャスターのようにカメラ目線でやるようにしました。

 それから、やっぱりお客さんが目の前にいないから、いつもなら起きる『ドッカーン!』というお客様の爆笑がない。それも戸惑いではありましたね。今はもちろん慣れました。文蔵組の配信落語会はゲストをたくさん招くので、中には配信が初めての演者もいます。席亭として、ちゃんとアドバイスできないといけませんから」