お笑いからミュージカルの演出まで多彩な活躍ぶりのラサール石井さん。還暦をすぎてなお若々しいその秘密は、高いハードルへの絶えざる挑戦にあるようだ。今月のこまつ座公演「円生と志ん生」で五代目古今亭志ん生に扮する。
「最初、僕の役柄は三遊亭円生師匠だと聞いていたんですよ。2週間くらい円生さんの本を集めたりDVDを観たりしていたら、いや志ん生師匠の方だと分かって(笑)。志ん生さんは、誰も真似できない人というか、アプローチが難しい。今はとにかく毎日志ん生さんの噺を聞いています」
舞台は終戦直後の旧満州国、大連。志ん生と円生がその時期大連にいたことは史実で、井上ひさしの筆は、関東軍に見捨てられ、ソ連軍や中国共産党の監視下で、貧しくきりきり舞いしながら生き延びた日本人達の姿を描き出してゆく。引き揚げ後は売れっ子噺家になる志ん生も、ここでは飴や富くじなどを売って食いつないでおり、でも噺の修業だけは怠らない。
「志ん生師匠というと福福しいイメージですが、大連では食べ物も乏しくてガリガリだったと思うんですよ。でもそれをリアルにやっちゃうとお客さんの期待する志ん生さんでなくなっちゃうのが難しいところです。頭は一度ツルツルにしてみますけどね」
見所の1つは、4人の女優が、ある時は宿の女将と下女、ある時は遊郭の女郎、ある時は母親達の亡霊、ある時は教師、ある時は修道女と、様々な職業の女性達に変身する展開だ。大連の世相、風俗が生き生きと伝わってくる。
「井上先生の戯曲は大体において役者を楽屋にかえさない(笑)。演じていない時はずっと着替えてなきゃいけない。志ん生さんは、中国へは着物1枚だけ持って行ったと色々なところでおっしゃっていますが、この芝居ではまず国民服で登場する。井上先生は史実を重々承知の上で作劇のためにあえて嘘をつく。この国民服がやがてボロボロになって、終盤、とある勘違いをされる伏線になっているので(笑)」
テレビ人形劇「ひょっこりひょうたん島」を観て育った世代。上京して初めて買った本は『天保十二年のシェイクスピア』。早稲田大在学中にテアトル・エコーの養成所を受けたのも募集要項に「講師・井上ひさし」とあったからだ。ところが入所したら井上はテアトル・エコーを辞めていた。「藪原検校(やぶはらけんぎょう)」はじめこまつ座芝居を観続け、「手鎖心中」ほか井上作品を読み続けた。近年ようやく「相思相愛」となり、2014年には、こまつ座公演「てんぷくトリオのコント~井上ひさしの笑いの原点~」の脚本も手掛けた。
「今回は僕だけでなく、こまつ座初出演の役者さんがほとんど。体力つけてパワフルな舞台をお見せします!」
らさーるいしい/1955年大阪府生まれ。早稲田大在学中に劇団テアトル・エコー養成所入所。77年渡辺正行、小宮孝泰と「コント赤信号」結成。お笑いタレントとして人気を博す一方、俳優、演出家、脚本家として舞台・演劇活動にも注力。2016年『HEADS UP!』で読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
こまつ座第119回公演『円生と志ん生』
9月8日(金)~24日(日)
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA 問い合わせ TEL:こまつ座03-3862-5941
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#280