写真/大森大祐

 人の声に一番近い弦楽器がチェロで、日本人はチェロ好きが特別に多いらしい。人の心を落ち着かせる音、鎮(しず)める音を奏(かな)でて、名実ともに絶大な人気をもつ若き音楽家、宮田大さん。その3枚目となる最新CD『木洩(こも)れ日』が近く発売になる。

「フォーレ『夢のあとに』『シシリエンヌ』、カッチーニ『アヴェ・マリア』、サン=サーンス『白鳥』、ファリャ『火祭りの踊り』、ブルッフ『コル・ニドライ』等、小品9曲ですが、“光”が全体を貫くテーマです」

 光が落ちるとき、物事は色合いも、形も刻々と変わって見える。同じ人が同じものを見ても、その時々の心で感じ取るものが変わる。音もそうだと宮田さんは語る。

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 クラシックに親しみのない人でも、収録されたピアソラの『Café-1930』を聴けば、あのバンドネオン特有の音と迫力をチェロで出せるのか、と面白く思われるに違いない。この曲をチェロとピアノ(7年来の相棒、ジュリアン・ジェルネ氏)で再現したのは、ほぼ世界初とのこと。

 CDで弾いているチェロは、1698年製のストラディヴァリ。名器といわれる楽器ならでは。木の醸(かも)し出す音色が圧倒的で、哀しくさせる部分はより哀しく、心の深くに響く部分ではより深いところへと運んでくれる。

「どんなにいい楽器でも、自分の好きな音になるまでに、相応の時間が掛かります。また、コンサートや収録前など弾く前には、“その場の空気”に慣らすために、1時間、2時間弾いて、鳴らして、チェロと僕の2人分のウォーミングアップが必要です」

 2009年、世界一が懸かったコンクールの最終演奏の前日、宮田さんは友人のパティシエが作ったケーキを食べた。「それがすごく美味しかったんです。甘いんだけど、その甘さが押しつけがましくなくて、『ああ、こんな演奏をすればいいんだ、聴く人が入って来れる隙間(すきま)、を作らなければいけない』と思い、翌日は演奏しました」

 誰が聴いても「宮田さんのチェロはいい音楽だな」と感じる理由は、その“隙間”にあるのかもしれない。

 宮田さんの苦手なものは、なんとリハーサル。「僕は何か言おうとすると、言葉ではうまく出て来ないので、『この部分はこうします』とリハーサルで口にするのが億劫(おっくう)で……チェロで気持ちを表現するほうがずっと楽です」

 じゃあ、二日酔いのときは音も二日酔いになる?

「ハハハ、確かに、二日酔いの時もあるかもしれませんねえ。でも、仮に二日酔いで弾いたとしても、他の人には気付かれない自信はありますよ。プロですから(笑)」

海外のオーケストラとの経験も豊富。写真の2013年10月、ドイツ・フランクフルトでのコンサートでは、休憩前に世界的に高名なチェリストのミッシャ・マイスキーが弾き、宮田さんがドボルザークの『チェロ協奏曲』を弾いて、“トリ”をつとめた。
同コンサートのリハーサル風景。指揮者のクリストファー・ポッペン氏(元ケルビーニ・カルテットの第一ヴァイオリニスト)と打ち合わせ中。
写真・亀村俊二
世界一になってから8年。国内外で活躍する演奏家になったいまも、いつも謙虚で、音楽に対してまじめな態度は変わらない。

みやただい/1986年、栃木県生まれ。3歳よりチェロを始め、9歳より出場するコンクール全てに1位入賞を果たす。2009年、ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールで、日本人として初優勝。国内外で活発に演奏活動を行なう。使用楽器はストラディヴァリ1698年製、ゴフリラー1710年製。

INFORMATION
 

宮田大3rdアルバム『木洩れ日』
一般発売2017年10月10日。9月27日から始まる全国ツアーのコンサート会場にて先行販売のほか、宮田大オフィシャルサイトの公式オンラインショップで、予約受付中(http://daimiyata.buyshop.jp/)。

CD、全国ツアーに関する情報は、特設サイトまで。http://www.daimiyata.com/special.html

宮田大オフィシャルサイト http://www.daimiyata.com/