嫌い合っていた2人が衝突を繰り返し……まるで恋物語
この大和田の姿は、まさに“恋するツンデレ乙女”だ。
第8話で半沢と共闘することになるのだが、そこでも大和田は「お前のためじゃない」とわざわざ釘を刺した。この言動は「別にアンタのために作ったんじゃないからね!」と明らかに用意してきた手作り弁当を、さも単なる余り物のように渡す少女漫画の主人公のようだ。
「この世で一番お前が嫌いなんだよ!」と憎まれ口を叩くが、半沢のバンカーとしての資質は認めていることを語り、先述の「おねしゃす」のやり取りを経て、離れた距離から腕を真っすぐ伸ばして、ほんのちょっと拳が触れ合う“握手”をする。この展開は、最初は嫌い合っていた2人が衝突を繰り返すうちに恋愛関係になるという王道の恋物語のようだ。
“おじカワ”目線が浸透しスタンダードになった
大和田は前作から7年の時を経て、最大の敵から味方になった。「ドラゴンボール」の孫悟空とベジータのようだとネット上で度々指摘されているように、少年漫画的な熱い展開だ。しかし半沢と大和田は「仲間」になってしまうのではなく変わらずに罵り合い、ときには敵か味方かわからない裏切りの予感も漂わせつつ、共通の目的に向かって進んでいく。この関係の不安定さ、ヤキモキ感は少年漫画というよりも少女漫画的だ。
今作では“憎き敵”から“可愛いヒロイン”になった大和田。これは人情味が増したストーリーや、香川の進化した演技の賜物だろう。しかし、理由はそれだけではない。
近年、ドラマ界では「おじさん=可愛い」という“おじカワ”“おじキュン”目線が長い時間をかけてジワジワと浸透し、ようやくスタンダードになったという背景があるのだ。
数年前からドラマ全体のトレンドとして「おじさん」需要が高まっていた。きっかけは2012年に始まった「孤独のグルメ」(テレビ東京系)だろう。松重豊が演じる輸入雑貨商を営む井之頭五郎が食事を無心に食べるという一見すると地味なドラマだが、美味しいものに夢中になっている姿に癒された視聴者は多い。
その後、テレビ東京で放送された松重のほかに故・大杉漣や遠藤憲一ら渋い名脇役者たちが出演した「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」(2017年)、2019年の「きのう何食べた?」、「コタキ兄弟と四苦八苦」、「デザイナー 渋井直人の休日」など、おじさんが主役の深夜ドラマは躍進を続けた。