このセリフの後、大和田は遠ざかったあとにわざわざ戻ってきて、首をかききる仕草まで加えた情熱的な絡みを見せた。ちなみに、この絡みは香川照之のアドリブだ。香川は「生放送!!半沢直樹の恩返し」(TBS系)で、「(土下座をさせられた)宿敵に会ったときに、何か言ってやろうと前の日から考えていた」と語っている。
このシーンで、一部の視聴者は「オヤッ?」となったことだろう。「大和田ってこんなに人間臭いキャラクターだったっけ?」と。
この後も大和田は、半沢に会うときにはいつも「待ってました」の顔をする。会っていない間も、おそらく頭の中は半沢のことでいっぱいなのだろう。前編から7年もの月日を経て濃厚に熟成された有り余る思いが、本人を目の前にして溢れ出す。その瞬間の大和田の表情に、視聴者はまるで恋心のような熱い想いを感じ取ってしまうのだ。
「死んでもヤだね~!」喜怒哀楽を剥き出しに
大和田は前作ではもっと狡猾で残酷で嫌な敵役キャラクターだったが、続編では自身が目をかけていた伊佐山に裏切られるなど、哀愁を漂わせ、子供のように喜怒哀楽を剥き出しにし、その必死さゆえにコミカルささえ漂っている。
第4話で、共闘を持ちかける半沢に対して、「お前なんかと、誰が手を組むか! 死んでもヤだね~!」と子どものケンカ状態で言い放ち、車で去っていった。かと思うと、自身を裏切った伊佐山への復讐心と、憎き宿敵・半沢と手を組む屈辱とを天秤にかけたうえで、車をバックさせて戻ってきて半沢に「お前の握ってるカギってのは何だ? 言ってみろ。それ次第で決めてやる」と歩み寄るのだ。
政府に対する半沢の反抗的な態度を咎め、目をつけられたら銀行の終わりだと嘆いた後、下唇を思いきり噛みしめ、「銀行沈没!……頭取もチンヴォッッッツ!!!!」と叫んでみたり(第6話)、銀行員としての矜持から帝国航空の債権放棄に反対する半沢を必死に説得しながら「債権放棄は絶対だ! 絶対に、絶対です! です! です! DEATH!」と再びの「DEATH!」を炸裂させたりする(第7話)。
第8話では、常務の紀本(段田安則)と箕部幹事長(柄本明)がつながる理由を探るため、大和田が第4話とは逆に半沢へ共闘を持ち掛ける。しかし半沢は大和田自身が以前やったことの報復として「お願いするときの大切な7文字は?」と言うのだ。大和田は「おねがいします」と発することに抵抗するあまり、目を潤ませ、唇をプルプル震わせ、口ごもりながら「お……おねしゃす!」というネット民のような言葉を放ち、すかさず半沢から「あと2文字足りませんが」と指摘される珍妙なやりとりを披露した。
大の大人が、それも立場ある人間が、こんなにもみっともなく感情を剥き出しにする様は、日常ではなかなかお目にかかれない。普通は周りの目を気にして、平静を装うものだが、そんなことも気にならないほどに大和田の目には半沢しか映っていないのだろう。