文春オンライン

日本のメディアは政治権力に対して「どうして?」を問わなくなった

「政治ドキュメンタリー」から語る、日本の現在地 #1

「高校で同学年だった小川くんが出馬するらしい」と妻が

石井 それにしても、どうして小川淳也さんという政治家を取り上げようと思ったんですか?

大島 小川さんを、というよりまず、政治家を撮ってみたかったんです。いろんな人物ドキュメンタリーをやっていると、自然といろんな職業の人を見てみたいって思うようになるんですが、中でも政治家には興味があった。でもフリーの立場からすると、なかなかアクセスのしにくい人たちで。

石井 人脈といったルートがないと、深くは入り込めない世界ですよね。

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大島 そうです、報道の政治担当だったりすれば別ですが、そうでなければ入りにくい。ところが2003年、小川さんが総務省を辞めて民主党から初出馬するときに僕の妻が「高校で同学年だった小川くんが、家族の猛反対を押し切って出馬するらしい」と。それで、初出馬で妻の縁もある人なら近づきやすいだろうと、彼のこともよく知らずにスケベ根性で会ってみたのが最初です。それから付き合いが続いて、発表のあてもなくカメラを回したり、回さずに会ったりを繰り返していました。

大島新さん

映画にしたいと思った直接的なきっかけは

石井 政治家という職業への興味から、小川淳也という一人の野党政治家に出会い、興味を持ったわけですか。では、映画にしたいと思った直接的なきっかけはあるんですか?

大島 小川さんって「社会を変えなきゃいけない、日本を変えなきゃいけない」と目をキラキラさせて言い続けて、政策通であることを自分の強みとして訴えかける人なんです。逆に政局や政治家としての世渡りに関してはちょっと鈍いところがある。それは映画でも見せているつもりなんですけど、彼と付き合っていると単純に思うんですよ、「なんでこんなに真面目でまっとうな政治家がうまくいかないんだろう?」って。民主党が民進党に変わったのが2016年ですが、ちょうどその頃かな「こんなダメな野党の中でさえ、どうして小川淳也は出世できないのか?」と。その単純な「どうして?」が小川さんで作品を作ってみようと思ったきっかけです。

石井 映画を観ていて不思議だなと思ったのは、小川さんって選挙区じゃなく比例で当選したことを負い目のように語るところ。比例だから発言権がないとか、党の中で力が持てないとか。でもそこに格差があるなんて国民は思っていない。国会議員なんだから一緒でしょ、と。謙虚すぎて歯がゆく思う部分もありました(笑)。

石井妙子さん

大島 今回の合流新党でも、若手議員を中心に小川さんを代表候補として担ぐ声があったそうです。ただ、結局は選挙区当選でないことを理由に手を挙げなかった。僕も彼に言ったんですよ。そこは気にしなくていいんじゃないか、比例は選挙区に比べて一段低いなんてルールはどこにもないんだからって。でも彼は、自分で色々と分析してブレーキをかけてしまう。それで突破力を自分で削いでしまっている。そういうところは誠実さの裏返しでもあるんですが、まさにこんな真面目な人がどうして政治家としてうまくいかないんだろうって思って撮影していました。