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強いものの側に自分もいると思いたい人が増えている

石井 小池さん自身に本業といえるものがないわけですよね。技芸で生きているわけではないし、実業家でもない。容姿を含めた自分自身のキャラクターを売り物としていました。知識や技を深めていく職業なら腰を据えられますが、そうでないと次々と居場所を変えて生き抜いていくことになる。女性に就職の機会を与えなかった社会の問題でもあると思いますが。

大島 とはいえ、純粋に憧れの対象として『女帝』が読まれるというのも驚く話ですね。彼女のカイロ大学首席卒業疑惑といい、表と裏の顔の使い分けといい、小池百合子という人物の虚飾を丹念に描き、世の中がミスリードされないように本当のことを伝えようとしているのに。

 

石井 平成時代になって、世の中全体が虚飾化しているんでしょうか。有名人や成功者に対して無条件に憧れる、あるいは拝金主義的な価値観もすごく強くなっているように感じられます。言い方を変えれば、強いものの側に自分もいると思いたい人が増えているというか。自民党がどんどん強くなっていった理由も、こうしたところにあるのでしょうか。

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大島 そうですね、小川さんの選挙を撮影して回っていると、対する自民党候補の事務所なんか安倍さんのポスター一色なんです。とにかく自民党だから入れましょう、人気のある安倍総理の下で自民党候補やってます、という感じ。

「どうして?」とメディアが思わなくなってしまったら

石井 勝ち馬に乗る、長いものに巻かれることに慣れてしまうと、健全な批判意識は生まれなくなりますよね。最近、世の中が批判することに対して批判的になっているなと思うんです。「そんなに人を悪く言うなんて」と。『女帝』の感想として、「学歴詐称なんて、そんな過去のことどうでもいいじゃないか。都知事にまでなった人なんだから」「コロナで頑張っている都知事を批判するなんて許せない」という意見もありました。

大島 確かに危険な兆候という気はしますね。長いもの、つまり権力のあるものに対して常に「どうして?」とメディアが思わなくなってしまったらおしまいですよ。

石井 小池さんのカイロ時代の同居人で、「小池さんはカイロ大学を卒業していない」という重要な証言してくれた早川玲子さん(仮名)さんも「どうして?」という思いを抱いている方でした。早川さんは最初、ある新聞社に「小池百合子さんは学歴を詐称している」という告発の手紙を送ったんですね。でも、何の返事もなくて、それで私に宛てて手紙を下さった。私からも返事がなかったら、もう日本人に真実を伝えることは諦めよう、と思っていたそうです。カイロ在住歴の長い早川さんに、私は何度も、聞かれました。「日本のメディアはどうして、真実を知ろうとしないんですか」「日本もエジプトと同じように権力者の批判はできない国になったんですか」と。

 メディアだけでなく、「どうして?」という疑問を持って生きている人が少なくなっているように思います。でも、だからこそ、「どうして?」という問いを発し続ける必要があるんでしょうね。

写真=山元茂樹/文藝春秋

【続き】なぜ野党議員のドキュメンタリー映画で「泣ける」という感想が多いのかを読む

INFORMATION

映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」公式サイト
http://www.nazekimi.com/

9月26日(土)夜8時より、オンライン上映会開催(スペシャルトーク付き) ※10月2日(金)24時までアーアイブで視聴可能
http://www.nazekimi.com/#online

女帝 小池百合子

石井 妙子

文藝春秋

2020年5月29日 発売