「どうして? どうして?」と謎を追うようにして
石井 私の場合の「どうして?」は大島さんと真逆で、「どうしてこの人が出世しちゃうの?」でした。小池百合子という人は、どうして男性社会の政治の世界でのし上がり、自民党総裁選にも出馬し、東京都知事というトップにまで登り詰めていけたのか。いったいこの政界という場所は、どんな理屈で動いているのか。「どうして?」と思うことばかりで。その一方で、「どうして?」と思うのは、私が政界に通じていないからなのかな、とも思ったり。
大島 お互い政治記者でもジャーナリストでもないことが強みになっているのかも知れませんね。僕もこの作品を撮りながら、つくづく政治の世界には「王様は裸」的な虚像が溢れていると感じました。だから、下手に政治に通じていると見えなくなるものがたくさんある。
石井 知らないからこそ「どうして?」が出るんでしょうね。
大島 その意味で『女帝』を読んであらためて思ったのは、小池さんの一貫性のなさ。政治の世界では「遊泳術」は常套手段かもしれませんが、小川さん的に言うと「政治家は信念を持たなければならない」はずで、本当は変ですよね。小池さんの場合は、細川護熙、小沢一郎、小泉純一郎と「隣の席」の人を次々と変えていくでしょう。全くタイプの違う政治家を渡り歩くところなんか、象徴的で。
石井 そうなんですよね。それでどうして、うまくいってしまうのかがわからない(笑)。だからこそ、「どうして? どうして?」と謎を追うようにして詳しく書けたというところはあるかもしれません。この女性はいったい、どういう人間なのか。その答えを見つけたかった。
共感から「このままでは難しいだろうな」に変わった
大島 取材対象者への距離感でいうと、僕の場合は最初は共感から始まったんです。年代も近いし、言っていることも正しい。でもだんだん、このまま青臭すぎることを訴えているだけでは、政治の世界ではやっていけないだろうなって思うようになって、共感から「このままでは難しいだろうな」って気持ちに変わったんです。それでタイトルも「なぜ君は総理大臣になれないのか」に。
石井 取材を始めた頃、大島さんが最初に提案したタイトルは「それでも政治家になりたい」だったんですよね。それに対して小川さんは「このタイトルには、ちょっと違和感がある」と切々と大島さんに訴える。「世の中をこう変えたい」という強い意志があって、それをしたいから官僚を辞めて政治家になった、地位を欲しているわけじゃないんだ、と。青いといえば、青いのかもしれませんが、誠実さは伝わってきました。
大島 どうしてこの人が政治の世界でうまくいかないんだろう、というのは『女帝』に出てくる小林興起さんにも感じたんです。郵政選挙のときに政策として真面目に考えぬいて「郵政民営化反対」を唱えたのが小林さん。そこに「刺客」として小泉さんに放たれたのが小池さん。