文春オンライン

日本のメディアは政治権力に対して「どうして?」を問わなくなった

「政治ドキュメンタリー」から語る、日本の現在地 #1

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真面目な人が不遇というのはやるせない話です

石井 小林さんは世襲議員でもなく、地盤も看板もない官僚出身者で政策通。そういう点では小川さんと似ていますよね。キャラクターはだいぶ違うように思いますが(笑)。小林さんは、政策を訴えて小池さんと戦おうとした。取材時、小林さんがおっしゃっていました。メディア、特にテレビでの報道のされ方が恐ろしかったそうです。政策論なんて、まったく取り上げてもらえず、容姿で判断されてしまった。「クリーンできれいな女性政治家」小池百合子、片や「悪代官みたいな顔をした脂ぎったおじさん」小林興起、と対立的に顔をフレームアップして報道され続けた、と。

大島 政策論に触れないんですよね。

石井 小林さんは郵政民営化法案の一部に問題があると感じ、反対する立場を取った。すると女刺客として、自分の選挙区に小池百合子が送られてきた。小林さんは郵政民営化に賛成する小池さんに政策論争を持ちかけるのですが、「法案を読んでない」と一蹴される。「だって私は大臣なんだから、忙しくて読む暇なかったのよ」と。

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大島 そこが小池さんの強さですよね。

石井 これがまた報じられないし、国民も気にもしない。表面的なところだけすくい取り、それを消費して、面白がる。深い考えから真面目に政策を語ったり、意見を述べても得にはならなくて、むしろ損をする。派手なパフォーマンスが受ける。

大島 真面目な人が不遇というのは政治の世界に限らないとはいえ、やるせない話です。

「なれなかった自分」を小池さんに投影している方も

石井 自分の考えや意見を読者に押し付けないように書きたいと、いつも思っているのですが、私の「どうして?」という感情が今回の『女帝』には色濃く表れたかもしれません。でも、読者の反応は思ったよりも幅広くて。先日、びっくりしたのは「これはハウツー本ですね。男社会を生き抜く女性にとっての生き方バイブルです!」という声でした。

大島 それはすごいですね。あれがサクセスストーリーとして純粋に受け止められるのか。

 

石井 あと、痛快だったという声も。小池さんが築地市場移転問題で石原慎太郎さんを追い込むあたりだとか、男の人たちをやっつけていく感じが「読んでいて痛快」だった、と。小池百合子という人物がトップとして政治を動かしていることに警鐘を鳴らす本として受け止める方もいれば、小池さんを後押しする本として読まれる方もいる。

大島 ベストセラーになるというのは、そういうことなんでしょうかね。

石井 さまざまな反応を見ていて、「なれなかった自分」を小池さんに投影している方も多いのだな、と気づきました。女性であることで活躍する機会を奪われたと感じてきた人たち、男社会の中で忸怩たる思いを抱いて生きてきた女性たち。

大島 本の中で、小池さんと親交のあった実業家の奥谷禮子さんがこう語っていましたよね。「私の世代で仕事をしている女性というのは、これ、という一芸を持っている人たちが多い。小説家だとか、漫画家だとか。そうでないとなかなか難しい。でも、小池さんには深い専門性はなかった。だから彼女は必然的に『とらばーゆ』を繰り返すんだと思って見ていました」と。