春名 そうなんです。誹謗中傷がエスカレートして、仕事に支障が出始めたころからどうにかしなきゃという思いは強くなった気がします。この舞台だけでなく、誹謗中傷によって仕事がなくなるということは少なくはなくて……。
――え? 舞台以外にもあったんですか?
春名 実は以前に、とある番組によく出演させてもらっていたのですが、番組に「不快だから降ろせ!」という電話がいくつも来てしまって降板することになって。番組の制作スタッフの皆さんにもご迷惑をおかけしてしまいました。ツイッター上だけで誹謗中傷を受けていたはずなのに、舞台やテレビにもこうして実害が出てしまうようになっていくのは本当に怖かった。
俳優に“芝居だけをやるべき”は「すごく理不尽だなと思うんです」
――理由は「不快だから」だけなんですか……。
春名 確かに視聴者の皆さんやお客さんに喜んでもらうことは大事です。私たち側から視聴者の皆さんにお願いすることがもう少しあってもいいかなと思っています。でも例えば、芸能人が自分の意見や考えをコメントすることに対して、「色がつく」だとか「芝居だけやるべき」と言う人を多く見かけるようになりました。でも、演技をしている俳優が実世界で自分の意見を言うことと、別の世界で誰かを演じることを繋げないで欲しい。単純に、すごく理不尽だなと思うんです。
SNSの誹謗中傷に対する刑は軽すぎる
――今回は315万4000円の示談で裁判は決着しましたが、改めて「SNSの誹謗中傷」についてどう思われますか?
春名 表現の自由は守られるべきだし、匿名性のメリットもちゃんと大切にしたい。身分も立場も違う人々が匿名性を持つことで繋がれる仕組みは本当に素晴らしいと思うんです。その素敵な空間を守るためにも、「人を傷つけることはしてはいけない」という、最低限のルールを守ってほしいというだけなんです。守れない人たちにはちゃんと反省してもらう機会を作るべきです。
今回、裁判をしてみて何が一番大変だったかと言うと、プロバイダーの情報開示請求でした。もちろん何でも認められるのは危険なのである程度の難易度は必要ですが、1年もかかるのはやっぱりおかしいですよね。しかも、SNSの誹謗中傷に対する刑は軽すぎます。SNSはこの何年かで、規模も使われ方も変わってきています。それに応じた法の整備をする必要は当然あるはずです。