7月30日、台湾の李登輝元総統が多臓器不全のため亡くなった。台湾出身者として初めて総統に就任し、12年に及んだ在任中には総統直接選挙を実現。「民主化の父」と呼ばれた。22歳まで日本の占領下で育ち、日本人として教育され、日本人として生きた。97年の生涯では、日本と台湾の交流にも力を注いできた。

 ジャーナリストの櫻井よしこ氏は李氏に何度も取材を重ねただけでなく、台北市内にある自宅を訪問するなど公私にわたり交流を続けてきた。

櫻井よしこ氏

 櫻井氏が知られざる李氏の素顔を明かす。

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「いつも生と死に悩んでいた」

 李元総統は日本の占領下にあった旧制台北高校に進学すると「いつも生と死に悩んでいた」多感な青年だったという。

「なぜ人間は生き、そして死ぬのか。生と死の意義は何か。李登輝氏は多読の中で西田幾多郎や鈴木大拙に出合う。倉田百三、和辻哲郎、夏目漱石、さらにカント、ヘーゲル、カーライル等に導かれた」

 櫻井氏が李氏に初めて会った時、カーライルと西田幾多郎について1時間以上にわたり熱心に説いたという。

李登輝元総統

「余りよく理解できていない私に繰り返し、自身が決定的な影響を受けた二人について、口角泡を飛ばす勢いで語り続けるのだ。心の一番深いところにぎっしり詰まっている思いが熱い息遣いと共に腹から湧き上がってくるように語る。

 語る。語る。語る。

 その姿は、司馬遼太郎が『旧制高校生のよう』と形容したそのままだ」