北朝鮮軍が公務員の韓国人男性を銃殺し、遺体を焼却したとされる衝撃的な事件が起きた。韓国メディアは一斉に「蛮行」と糾弾。韓国社会は騒然となった。 

 事件は22日夜、韓国と北朝鮮の北方限界線(NLL)付近の海上で起きた。 

 北朝鮮軍に射殺されたAさん(47歳)は海洋水産部傘下の西海漁業管理団に所属する公務員で、それまで勤務していた船から9月に異動となり、17日に事件が起きた船に乗りこんだばかりだった。 

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Aさんが転落した船 ©EPA/YONHAP/時事通信社

失踪から事件が明らかになるまでの時系列

 韓国国防部の発表などから経緯を整理してみよう。国防部の監視および傍受装備から情報を得たとしている。 

 21日午前11時30分頃、Aさんが履いていたとされるスリッパが船尾付近で発見され、船内にいないことが分かり、午後1時、各部署にAさん失踪の通報が回る。その後、海軍、海洋警察20隻あまりが捜索を開始。

 NLL近くに位置する延坪島の住民には、21日から24日午前までAさんの失踪関連の情報が携帯に届いていたという。延坪島は2010年11月、北朝鮮軍から砲撃された島として記憶している人もいるだろう。この砲撃事件は当時執権を準備していた金正恩朝鮮労働党委員長が指揮したのではないかと言われている。 

北朝鮮からの審問、射殺までの6時間

 翌22日午後3時30分頃、北朝鮮の水産事業所所属の船舶がライフジャケットを着用し、何らかの浮遊物に摑まって漂流していたAさんを発見。場所は乗り込んでいた船から38km離れた北朝鮮領域の海上だった。 

この画像はイメージです ©iStock.com

 北朝鮮船舶は船からAさんを審問し、Aさんは「越北」(北朝鮮の体制に共鳴して韓国から国境を越えて北朝鮮に入ること)の意志を陳述したという。 

 審問からおよそ6時間後の午後9時40分頃、高速船に乗って現れた北朝鮮軍は、武装もしていないAさんを射撃し、午後10時頃、遺体に油をまいて火を放った。午後10時11分頃、韓国海軍の延坪部隊がこの時の火花を感知したとしている。また、この時、北朝鮮軍は防毒マスクと防護服を着用していたと把握された。 

 韓国国防部が認知した一連の情報を明らかにしたのは24日午前11時。しかし、前日の23日には、北朝鮮軍によるAさん射殺を確認しながらも「失踪したが、生死は断定できない」とだけ公表していた。