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 延坪島の住民もこんなことを言っていた(YTNニュース、同日)。 

「あの辺りは流れが時計回りに強く回っており、北朝鮮に行こうとするならばあんな場所は選ばない」 

発表の遅れの影に「忖度」の可能性

 今回の事件は、事件を認知してから2日後に公式発表されたが、この後れには「忖度」もあったのではないかといわれている。奇しくも、文在寅大統領の国連演説と重なったのだ。別の中道系紙記者は言う。 

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「文在寅大統領の国連演説が流れたのは23日未明。演説の核は『韓国と北朝鮮の終戦宣言について国際社会に協力を求めたこと』。これは15日に録画されて、18日に国連に発送されたと発表されています。内容を変更することは不可能でしたから国防部の発表が後れたのはこの演説に水を差さないようにしたためだろうという見方が濃厚です」 

 23日に失踪とだけ発表した後、国防部担当の記者が再三にわたって詳しい説明を要求したが無視されたという。 

 文大統領に事件が伝えられたのは22日午後6時36分(国防部発表による)。23日未明には青瓦台で緊急会議が開かれ、早朝には文大統領が「事実を把握し、北朝鮮にも確認し、そのまま国民に伝えろ」とメッセージを出したといわれる。

 しかし、その日、文大統領は事件に触れることはなく、自身のツイートでは国連演説に触れ、「和解と繁栄の時代に前進できるよう国連と国際社会が協力してほしい」と書き込んでいた。 

文在寅の国連演説 ©getty

「非は北朝鮮にある」と繰り返す与党

 北朝鮮軍が韓国の民間人を射殺したのはこれが初めてではない。 

 2008年7月、南北交流の一環として行われていた金剛山観光で金剛山を訪れていた女性(当時53歳、主婦)が、早朝に散策していたところを背中から北朝鮮軍に狙撃され、死亡するという事件が起きた。これは、誤射とされたが、この事件をきっかけに2000年に初の南北首脳会談が開かれて蜜月が続いていた南北関係は一転して膠着状態となり、金剛山観光は今も中止されたままだ。 

 野党や保守派は、「国民を守れない政府」を強く糾弾しており、一方の与党や進歩派は、「非は北朝鮮にあって政府を責めるのは筋ではない」といった主張を繰り返していた。 

 韓国政府は「担当者の処罰と謝罪」を求めていたが、25日午後、北朝鮮の統一戦線部から書簡が送られてきたことを発表。中には、事実誤認がある旨と金正恩党委員長が、「私たちの海域でよくないことが起き、文在寅大統領と韓国の同胞に大きな失望感を与えたことを非常に申し訳なく考えている」とする内容が書かれていたという。