現実との「ズレ」と相反する「生々しさ」という魅力
加えてドラマの前シリーズから7年の歳月が流れ、その分だけ『半沢』世界自体が古びて見えるかもしれないという懸念もあった。しかし、ふたを開けてみれば『半沢』は今シリーズもヒットとなり、筆者の心配は杞憂に終わった。むしろ、どこか古びたところを感じさせるからこそ、『半沢』は再びヒットしたのではないかという気さえする。
俳優たちのセリフや演技からして前作以上に大仰さが増し、まるで歌舞伎やシェイクス
そんなふうに現実世界とのギャップが見受けられる一方で、今回のシリーズは回を追うごとに、妙に生々しさを感じさせるところもある。これまで劇中で描かれたエピソードを振り返っても、書類の改竄や隠蔽、政権によるマスコミの操作、あるいは不正をめぐって自殺者が出たことなど、ここ数年のあいだに日本の政界周辺で起こったできごととどうしても重ね合わせてしまう。もっとも、これらは原作ですでに描かれていたものだ。ここまでなら偶然の一致と片づけられようが、柄本明演じる与党幹事長・箕部の描かれ方などは、どうも実在する政治家の誰かを念頭に置いているような気がしてならない。
筆者がそう思ったのは、第8話(9月13日放送)で、それまで半沢の宿敵だった金融庁の黒崎(片岡愛之助)が、箕部の周辺を嗅ぎまわっていたところ外部に飛ばされてしまうという、原作にはない展開があったからだ。これを見ていたら、現首相・菅義偉が官房長官在任中、自分の肝煎りの政策について問題を指摘した官僚を左遷したという話をつい思い出してしまった。その回が放送されたのが、ちょうど自民党総裁選の前日だっただけに、よけいそう感じたのだろう。同回は、それまで若い国交大臣の白井(江口のりこ)を裏で操っていた箕部が、半沢と対面したのを機に、いよいよ前面に出てくるというタイミングでもあった。
下種の勘繰りついでに書いておくと、先週放送の第9話で、東京中央銀行の中野渡頭取が取締役の大和田(香川照之)を連れて箕部と密会していたのは、都内に実在するホテルだった(半沢が密会の場に乗り込む画面には、しっかりそのホテル名が入っていた)。しかも、永田町に程近いそのホテルは、菅首相がパンケーキをよく食べに行くということで就任時の報道でも話題になっていたのだが、これは単なる偶然だろうか?
そんなふうに考えていくと、くだんのホテルで半沢が箕部を前に叫