ただ、いくら現実のできごとや人物を想起させようとも、『半沢直樹』は社会派ドラマではなく、あくまでエンターテインメントとしてつくられている。実際、福澤克雄監督は前シリーズ放送後のインタビューで、《ずっと黒澤明監督の映画「用心棒」のようなドラマを作りたいと考えていました。一言でいうなら、「テーマがない」作品です。浪人が村にやって来て、ハチャメチャやり、最後はカッコよく去っていく―。黒澤監督が何をやりたかったのか、僕にはよく分からない。だけど、そういうドラマを作りたかった》と語っていた(※1)。そもそも原作者の池井戸潤からして、福澤との対談で、半沢シリーズをエンタメとして書いていると明言している(※2)。
前作の時点で続編計画を温めていた福沢監督
福澤は、ドラマ化の許可を得るため池井戸を訪ねた際、まだ書かれていない半沢が頭取になる分まで「全部ください」と頼んだという(※2)。それだけに、前作の放送が終わってからも、ずっと続編をつくるつもりで構想を温めていた。単行本『銀翼のイカロス』刊行時の池井戸との対談では、《[引用者注:半沢と]谷川さんとのやりとりや、終盤の中野渡頭取が語るシーンは、映像にするなら僕なりに膨らませてみたいと思うところです》などと、早くもドラマ化を見越した発言を繰り返した(※3)。
なお、「谷川さん」とは、帝国航空のメインバンクである開発投資銀行の担当者で、ドラマでは西田尚美が演じている。原作において谷川は、タスクフォースが銀行団に求める債権放棄について半沢から私見を求められると、呑むべきではないと述べつつも、それがそのまま銀行の総意になるわけではないと説明していた。
ドラマではそんな谷川を味方につけるべく、半沢が説得する場面が設けられ、彼女がやはり銀行員だった父から教えられたという「貸すも親切、貸さぬも親切」という言葉(これは原作にも出てくる)と合わせて印象に残った。他方、中野渡頭取が語る場面は、おそらく最終話に出てくるはずだが、果たしてどのように描かれるのだろうか。