新型コロナウイルス感染症拡大により、開催延期となった2020年東京オリンピック。延期の報を受け、代表に内定していたアスリート達は何を思い、どのように行動したのか―。教育ジャーナリストの小林哲夫氏の著書『大学とオリンピック1912-2020』(中央公論新社)より、翻弄される学生アスリートたちの思いを紹介する。(全2回目の1回目。2回目を読む)

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コーチの指導はオンラインで

 2020年3月24日、安倍晋三首相(当時)が2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延期を発表した。

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 すでに代表に内定した選手たちはさまざまな受け止め方をした。この中に大学生が何人かいる。彼らに大会延期を知った時の様子、来年予定される大会への準備について聞いてみた(2020年6~7月)。

 切磋琢磨。メダルを目指すアスリートとして、この言葉が最も似合うのが、東洋大陸上競技部所属で総合情報学部4年の川野将虎、経済学部4年の池田向希であろう。競歩競技で日本代表内定を勝ちとった2人は互いにライバルであり、リスペクトし合う仲間だ。仲が良い。

 東洋大の競歩は伝統的に強い。オリンピックにはロンドン大会から今回まで3大会連続で現役学生が代表となっている。川野は先輩たちの偉業に憧れて東洋大に入学した。

「大学4年の時にオリンピックが東京で開催される。東洋大の学生として出場することにこだわりを持っていました。だから、延期は残念でくやしかった。最初はショックもありましたが、酒井瑞穂コーチから『一年延びたことでさらに進化できる』と言われたことで、何ごともポジティブに考え、頑張ろうと気持ちを切り替えました。来年に向けて、しっかり準備をしているところです」

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 コロナ禍は、練習にも大きな影響を与えた。コーチからの指導は対面ではなく、オンラインを活用して継続的に行われている。

「今は体力、技術、精神面で基礎的なところから鍛えています。土台作りですね」

 池田が代表に決まったのは3月15日である。その9日後、大会延期が発表された。

「代表内定をもらった直後だったので、どう受け止めていいかわからず動揺しました。今年を目標に練習していたので、くやしかったですね。ただ、すぐにコーチから連絡が入って『大会延期の期間で、実力がさらに伸ばせる』と激励されました。19年の世界選手権は6位で勝ちきれなかったため、自分に足りないところを埋める、弱点を克服するチャンスだと思い、一年後を見据えた準備に取り組んでいます」