失語症になったばかりで「お母さん」「わかんない」の2語しか言えなかった頃、病院にお見舞いに来てくれたのが、マラソン解説者としても有名な増田明美さん。それから10年が過ぎた2019年7月に、近所で増田さんの講演会があると聞いて、連絡をとり、10年ぶりにお目にかかりました。
久しぶりに会った増田さんと、「9月にはMGCがあるから、それが終わったら一緒にカラオケに行きましょう」と約束しました。
増田さんが歌う都はるみは天下一品ともっぱらの評判なので、楽しみにしていたのに。なのに、なんでテレビが台形なんだろう?
画面にも焦点が合いません。文字がダブって見えます。
テレビの解像度が高くなったせいで目が疲れたのかと思い、私はピントが合わないまま、フラメンコのレッスンに出かけました。当時の私は近年になく体調がよかったので、フラメンコを習っていたのです。
目の調子がおかしいときに見た「色」は最高に綺麗だった
でも、やっぱり目の調子がおかしい。足元がよく見えず、段差があるのもわからない。
「これは! 記憶にあるぞ! もしかしたら脳卒中が再発したのかもしれない」
私はすぐに大学病院に行って、MRIを撮ってもらいました。大学病院のお医者さんはお休みにもかかわらず対応してくださいましたが、結果は異常なし。
目の異常は、2カ月ほどで良くなり、寄り目にもならずにすみました。原因は不明ですが、おそらく軽い脳梗塞があったのだろう、と私自身は思っています。
ただ、この時に見た「色」は最高に綺麗でした。
白いソファが、近づいたり離れたりするたびに色が変わる。淡い緑の写真が、見る角度が変わるとピンクに見える。真っ白な洗面台が青く見えることもありました。