現在、わが国の女性の自殺率は、「異常」と言えるほど急上昇している。
警察庁の発表によれば、2020年7月の女性の自殺者数は、前年の563人から82人増えて645人。8月は前年464人から186人増えて650人に達した。前年に比べて40%以上増加しているのだ。
日本の年間自殺者数は、2003年の3万4427人をピークに緩やかに減少し、2019年は2万169人だった。だが、2020年は、10年ぶりに前年を上回る可能性がある。男女合わせて3月が前年より115人減、4月が326人減、5月は289人減と2万人を切る勢いだったが、女性の急増によって8月は246人増となってしまった。
同様に、大きな波紋を広げているのが相次ぐ芸能人の死である。
5月23日にプロレスラーの木村花さん、9月14日には女優の芦名星さんが亡くなり、9月27日に死亡が確認された竹内結子さんも自殺と見られている。
南山大学の阪本俊生教授は2020年5月に刊行した『新自殺論』(青弓社)の中で、社会学の観点から、自殺は経済苦や人間関係といった個人の問題である以上に、社会の問題であると説く。個人が抱えた問題を社会が救えるか、逆に追いつめてしまうのか——。
いまなお世界有数の自殺大国である日本で、女性に何が起きているのか。阪本教授に話を聞いた。
重要なのは「社会がうつ病を患った人をどう扱うか」
——いま日本で自殺が急増しています。その理由としてどんなことが考えられるでしょう。
「自殺の原因というと、経済的苦境や孤独、うつ病のようなものが思い浮かぶと思います。ただ日本ではうつ病は自殺の大きな要因になりますが、ヨーロッパではうつ病が増えても自殺が日本ほどは増えていません。つまり、うつ病そのものが自殺の原因というよりも、社会がうつ病を患った人をどう扱うかが、本当の原因なのです。
これは経済問題や人間関係も同じで、トラブルそのもの以上に『人からどう見られるか』というプライドや自己イメージが傷つくことに注目する必要があると思います。私たちはその自己イメージのことを『フェイス』と呼んでいます」