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 さらに、殺害された男性が「“越北”(北朝鮮へ亡命)したがっていた」との情報を、政権側がことさら強調していることにも疑問の声が上がっている。

「確かに男性は救命胴衣を着ていましたし、船に靴も残っていた。さらに韓国軍の傍受で、男性が北朝鮮軍に対して名前や年齢を全部答えていることがわかっています。私個人としても、事故ではなく、越北の意志があった可能性が高いと思います。しかし問題なのは、与党の国会議員らがことさら男性の『越北の意志』を強調して、“越北なら射殺されても仕方ない”という趣旨の発言をしているのです。遺体を燃やすという人道に反した行為に対して、北朝鮮が相手だと怒らない政権なのです」(朴氏)

「ローンがあって救命胴衣を着たら越北者か?」

 射殺された男性の兄、李来珍氏(54)も、文在寅政権の対応に激怒している。事件直後から転落事故や自殺の可能性が除外された上、警察側が男性にギャンブルで作った約3億3000万ウォン(約3000万円)の借金があったことを明らかにしたからだ。

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 記者会見で兄は、男性が越北目的だったことを否定し、「当局が繰り返しているのは、弟の家庭問題と借金の話ばかり。それなら韓国の一般市民の50~60%が亡命することになる。弟の死の2日前にも話をしたが、亡命に言及することもほのめかすこともなかった」と主張したと報じられている。

ソウルで記者会見する、射殺された男性の兄、李来珍さん ©AFLO

「世間は兄に同情的です。借金があったのは事実のようですが、これから国を相手取って裁判になるかも知れません。特に不満を溜めているのは、長引く就職難に苦しむ若者たちです。このところ、『第2の曺国(チョ・グク)事態』と呼ばれる秋美愛(チュ・ミエ)法務長官が兵役中の息子を優遇していたという疑惑に続いての出来事ですから、不穏な空気が流れています」(前出・日本人特派員)

 実際に「朝鮮日報」(9月25日付)は、「特に若者層が今回の事件で見せた関心と怒りは大きい」とした上で、若者たちがネットに書き込んだ次のようなコメントを紹介している。

〈一般人でもなく、公務員が消えたのに、大統領が報告を1回も受けられないということがあるだろうか〉

〈越北しようとした韓国人は北朝鮮が銃殺しても何の問題もないのだろうか? 政府があまりにも非常識なので、自分の判断力すら鈍ってしまった気がする〉

 さらに、警察などが救命胴衣や借金を「越北の状況を示している」としていることについて、次のように皮肉っている。

〈ローンを返さないで船で救命胴衣を着ていたら潜在的越北者になるから、着るのはやめよう〉