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「頭頂部が被曝したんですね。ハゲが進むんでしょうか?」

 隣の机では、40代くらいの東電社員が同じ質問をされていた。東電の社員と分かって頭が取材モードになりその様子を凝視していたら目があったので、ニコッと微笑みかけたが無視された。

 その後、汚染検査表を持って建物の奥にある測定スペースに移動する。ここで使っていたのが、日立アロカ社製のGMサーベイメーターだった。男女2人の検査員が、それぞれ2番と10番のテープを貼られたサーベイを手に取り、2台を使って測定が開始された。

「テープのところにお立ち下さい。あっ、バンザイはしなくていいです。自然に手を降ろして下さいね。はい行きます。まず10番、バックグラウンド70です。あっ、気を付けも駄目です。手は楽にして、普通に下げて」

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 バックグラウンドとは、自然界を測定したカウント数である。地球上のどこでもごくわずかの放射能を帯びているので、これを考慮せずに測定すれば、どんな人間でも被曝していることになってしまうから、あとでこれを修正しなくてはならない。

後日、双葉町を取材した際の汚染検査記録表(著者提供)

 鼻、顔、頭頂部、後頭部、喉、両目、胸、背中、腹部、尻、両腕、掌、手の甲、足、足の裏など、あちこちを測定され、一番高かったのは頭頂部の150カウントだった。自然界の70カウントを引いても、数値上、80カウント被曝している計算だ。知識がほとんどないため、私は一気にパニックとなった。

「頭頂部が被曝したんですね。ハゲが進むんでしょうか? いや、これはハゲた言い訳にすればいいでしょうか」

「ハゲ……ハゲ……ですか。たぶんまったく無関係でしょうね」

 戸惑ったトーンの声を聞いてようやく我に返り、ふと男性係員の頭をみると、彼の頭は私以上にハゲていた。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売

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