36万円のサーベイメーター購入
5次請け業者は運転しながらしきりにぼやいていた。
「あーあ、もうかなり被曝しちゃったなぁ。どのくらい汚れたのかサーベイないから分かんないんだよなぁ。そういえばこの辺に同業者や関連会社がいっぱいあんだよ。突然の避難だったから、サーベイも置きっぱなしだろう。持って帰ったら高く売れんな。一勝負すっかな」
「そういえば銀行もありましたね。犯罪者にとって銀行強盗は男のロマンらしいですよ」
もちろん冗談だが、地元業者の話によれば、当時、地元の信用金庫にあった2億~3億円の現金は手つかずと言われていた。強盗団たちがそれを知らないはずがない。
当時、サーベイメーターの不足は深刻だった。放射能パニックによって多くの一般人が購入したため在庫のすべてが完売し、それを必要とする業者に回らないのだ。
サーベイメーターとは放射線測定装置の一種で、テレビのニュースでよく観る映像―完全防護服を着込んだ係員が、コードで繫がれた筒状の機器を持ち、フルノーマル(業者は一般マスクなしの私服をこう呼ぶ)姿の住民の体に当て、被曝量を測っている機械である。なにを計測しているかといえば、一分当たりのカウンター数で、単位はcpmが使われる。α線やβ線、その両方を測れるもの、また中性子を測定する特別な機器もある。
今回の原発事故で広くその名が知れ渡ったガイガーカウンターもこの一種で、ガイガー・ミュラー計数管(GM管)を使っているためこう呼ばれる。語源は開発者のハンス・ガイガーとヴァルター・ミュラーという2人の物理学者の名前だ。ガイガーカウンターは性能も値段もピンキリで、4万円から10万円程度の外国製は、それなりの性能と割り切ったほうがいい。私が買った6万円の中国製は正門前で針が振り切れた。
「そんなおもちゃ捨てちまえよ」
業者によると、正確な測定のためには、測定器を定期的に点検して補正せねばならず、まともなGMサーベイメーターなら最低、30万円はするという。後日、私が購入したのは日立アロカメディカル社製(以下、日立アロカ社)のTGS―146Bという機種で、36万円だった。品薄状態は今も続いている。
日本製の中でも日立アロカ社の製品を選び、なおかつ千代田テクノルという原子力・医療分野の放射線関連機器の販売会社を通して購入したのは、両社が原発業者の間で信用に足るブランドとして認知されていたためである。私の就職した会社が所有している機器も日立アロカ社製だし、帰京後、サーベイを受けに出かけた放射線医学総合研究所(放医研)でも、「コストを考えないなら(日立)アロカを千代田(テクノル)で買うのが一番のオススメ」と教えてもらった。