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自殺直前の言動をそのまま受け取ることはできない

 ある女性が尋ねてきたことがある。恋人と2人で旅行をした翌日、相手の男性が自殺した。女性は「きっと何か原因があったが、私に言えなかったんだ」と思い、会社関係、相手の家族、友人関係から話を聞いたが、誰一人、自殺の理由を知らなかった。ネットやパソコンに痕跡もない。そのため「理由のない自殺ってあるんですか?」と聞かれた。周囲にサインを出さない場合もある。

「死を決めることと、死への決心が強いかどうかは整理する必要がある。方法を思いついたり、死んだ後のことを考えたり、死後の世界を考えたり、様々なことを考えています。死について計画をしたからといって、今すぐ死のうとするかは別。ふいに電車に飛び込む人もいます。一方、うつ病の治りかけがリスクが高かったりします。医療者の立場とすると、『やっぱり生きて行こう』『自殺するつもりはない』と言って退院したけれども、その後、事故になることはあり得ます」(鑑定医)

 自殺直前の言動は、必ずしも、本人の気持ちを表出しない。「生きていこうと思います」という言葉が出たとしても、前向きになったとは限らない。2003年から05年にかけてネット心中が連鎖したが、その取材の一環で、当時19歳の男性と会った。彼は虐待を受けたことで自殺を考えるようになった。取材をしていると、前向きになってきたような印象だった。精神科にも亡くなるまで通院していた。しかし、数週間後、自殺系サイトで知り合った30歳の女性と一緒に亡くなった。

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筆者が白石隆浩被告と面会した拘置所 ©渋井哲也 

「レイプされて殺されるということを知っているのか」

 座間の事件の被害者の中には、何度も自殺未遂をしている人がいる。ネット心中やTwitterで自殺相手を募集する人たちの取材をすると、不思議な話ではない。この事件は、白石被告がなぜ短期間で9人も殺害したのかに注目が集まっている。ただし、一方で、若者たちが自殺願望をつぶやく心理についても考えなければならない。特に、今年の8月は、女性の自殺者が40%ほど増加している。若年層ほど、自殺者が多くなっている。

 座間事件後、筆者は、Twitterで「死にたい」とつぶやく人たちに取材した。すると、「10人目になりたかった」という女性が複数いた。そのことを面会で白石被告に伝えたところ、「驚きです。その人たちはレイプされて殺されるということを知っていて言っているのか」と、声を荒らげた。取材した人の中には、むしろ、性被害にあえば、死に向かう衝動に勢いがつくと話していた人もいた。事件の裁判を傍聴して、改めて、そうした人たちの声に耳を傾ける必要があると感じた。