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白石隆浩被告 座間9人殺害事件は「被害者が望んだ承諾殺人」だったのか

被害者からは直前に「生きよう」というメッセージも

2020/10/07

genre : ニュース, 社会

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 承諾殺人か通常の殺人か――。2017年10月までに神奈川県座間市内のアパートで男女9人を殺害した、白石隆浩被告(29)の公判が東京地裁立川支部(矢野直邦裁判長)で開かれている。検察側は殺害されることを承諾していないと、通常の殺人を主張している。一方で、弁護側は承諾殺人を主張する。

裁判が行われている東京地裁立川支部 ©渋井哲也

 9人とも、自殺を考えて、自ら白石被告に会いに行っている。一方では、殺害前には、生きようとしていると思わせる内容のLINEを友人に送っていたりする。これには自殺者の心理が関わっているが、法廷で鑑定医が「自殺をしようとする人が、直前に『生きようとした』と言ったとしても、自殺を試みることはある」と証言するように、裁判員の判断は容易ではない。

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「殺されてもいいから終わりにしたい」と書く一方で

 現在は、殺害された被害者9人のうち、3人の被害者について審理されている。被害者はプライバシー保護のためすべてアルファベットで呼ばれる。傍聴席には、被害者の家族が傍聴するために衝立が設けられていた。そんな中に、白石被告が気怠そうに被告席に座っている。

9月30日、初公判に出廷した白石隆浩被告[画・山下正人氏] ©時事通信社

 最初に殺害されたのはAさん(女性、当時21)。弁護側によると、Aさんが自殺を考えるようになるにはいくつかの理由がある。中学時代にいじめにあったり、恋愛での悩みがあったりした。高校1年のときには、1ヶ月ほど家出をしている。帰宅後、精神科に通院すると「適応障害」と診断されたという。その後、自ら通院を止めたが、市販薬で過量服薬し、入退院を繰り返す。入院中にリストカットしたり、自殺未遂を試みたりしたが、看護師に止められた。

 一方、高校時代にスマホを購入。TwitterやLINEをするようになった。と同時に、自殺系サイトを閲覧する。そこで知り合った女性と、海で自殺を図ったこともある。しかし、自分だけが生き残った。弁護側は、この時のことが「心に突き刺さっていた」とする。そして、2017年8月、死のうとして1年が経ち、希死念慮が強まった。「記念日反応」があったのだろうか、自殺をめぐるネット・コミュニケーションの結果、白石被告と出会うことになった。

 白石被告と出会った後にも、Aさんは日記に「殺されてもいいから終わりにしたい」と書いている。殺害される前日にも他の人と「殺されたい」とのメッセージのやりとりをしていた。そのため、弁護側は「承諾していた」と主張する。

 一方、検察側は、殺害される当日、白石被告から「携帯電話を海に捨ててくるように」と指示されたものの、海には捨てず、駅のトイレ内に放置したことのほか、白石被告が「自殺を止めるように」と言うと、前向きな変化があったこと、Aさんは白石被告との新しい生活を考えていたことから、承諾も同意もないと主張している。