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“天才ギタリスト” エディ・ヴァン・ヘイレンはなぜ「別格」なのか?《「BURRN!」名物編集長が追悼》

“天才ギタリスト” エディ・ヴァン・ヘイレンはなぜ「別格」なのか?《「BURRN!」名物編集長が追悼》

エディはいわば「志ん朝・談志」

2020/10/08
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 アメリカのレジェンド・バンド「VAN HALEN」のギタリストとして活躍したエディ・ヴァン・ヘイレンが10月6日、がんの闘病の末、65歳で他界した。息子のウルフ氏が発表した。

 アルバム「1984」や「5150」が日本を始め、世界中で大ヒットしたVAN HALENで、エディは、右手の指で弦を押す、独得の「ライトハンド奏法」で、世のギターファンの人気を集めた。一般的な音楽ファンには、マイケル・ジャクソンの大ヒットナンバー「Beat It」(邦題「今夜はビート・イット」)でソロパートを演奏したことで知られた。

「BURRN!」2012年12月号(エディは左。右はデイヴィッド・リー・ロス)、2006年4月号

 エディ・ヴァン・ヘイレンの急逝に際し、昨年35周年を迎えた音楽雑誌「BURRN!」で、26年にわたって編集長を務める広瀬和生さんが、「文春オンライン」に緊急寄稿した。

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 ギター奏法の歴史を大きく変えた天才ギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレン。彼は間違いなくロック史で最も重要なギタリストの1人に数えられるだろう。

 そのデビューは鮮烈だった。“天性のエンターテイナー”デイヴィッド・リー・ロスをヴォーカルにフィーチュアした米国ハード・ロック・バンド、VAN HALENがデビューしたのは1978年のこと。ロックの世界をパンクが席巻し、ディスコブームにより音楽業界のメインストリームはダンス音楽一色、ハード・ロックが衰退の一途を辿っていた時代に、VAN HALENのデビュー・アルバムは全米チャート最高19位と大健闘、新人バンドとしては驚異的な300万枚というセールスを記録した。

エディ・ヴァン・ヘイレン ©getty

「ライトハンド奏法」エディの出現でロックギターは変わった

 今と違ってバンドが実際に演奏している姿を映像として観ることが困難だった時代、彼らのライヴを観たことがないロック・ファン、特にギタリストにとって最大の驚きは、エディが「あり得ないフレーズを弾いている」ことだった。右手で弦を指板上に叩きつける「タッピング奏法」を用いるギタリストはそれまでも存在したようだが、驚異的なスピードでそれを用いるエディ・ヴァン・ヘイレンが彗星の如く現われるまで、それは一般には知られざる「秘技」だった。実際、あるプロの一流ギタリストから「当時はエディがどうやって弾いているのか全然わからなかった」と聞いたことがある。

 エディの出現により「ライトハンド奏法」と呼ばれることになったこのテクニックは、一気にロック・ギタリストの間に広まり、80年代以降のギタリストにとってごく基本的な奏法となっていったが、当時はまさに「革命」だった。エディ以前に彼に匹敵するほどの「革命」を起こしたロック・ギタリストはジミ・ヘンドリックスただ1人と言ってもいい。エディのタッピングを交えた速弾きスタイルは、それまでのブルーズを基盤とするロック・ギターの在り方を大きく変えた。