“労働者階級”を誇れる国
ブレイディ はい。そういう時に、出会ったのがUKロックでした。当時はUKロック全盛の時代。福岡は「めんたいロック」と言われるくらいロックが盛んだったので、私も聞くようになりました。
それで気づいたんです。UKロックでは堂々と「俺たちはワーキングクラスだ」と歌っているし、歌詞にも「貧乏だ、金がない」と平気で書いている。それで、ちょっと待てと。ここでは貧乏がカッコいいじゃんって。それで、「私はもしかすると、このワーキングクラスでは?」と。この人たちと生きていれば、自分が感じている疎外感がなくなるにちがいないと思って、その頃からイギリスに行くことしか考えていませんでした。だから大学にも行かず、バイトをしてお金を貯めては渡英を繰り返し、「この人たちは私と同じだ」と確信しました。
有働 イギリスに行って、初めて居場所を見つけられたのですね。
ブレイディ はい。だから、もしあのまま私が日本にいたら、こんな自分にはなっていなかったかもしれない。日本では、バブルの時代の労働者階級といったらダサいの極致でしたから。イギリスでは、その辺のマーケットで買った古着を自分で改造して、「お金をかけずにカッコよくなるのが労働者階級の知性よ」という感じ。そういう世界で生きたおかげで、自分に誇りを持てるようになった気がします。
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新型コロナウイルスが席巻し、保育士や介護士、配送業者やスーパーで働いている人たちなど、日々の暮らしを支えるキーワーカーの大切さに改めてスポットライトが当たっている。この状況を、ブレイディさんはどのように見ているのだろう。
「少し前まで、単純労働はロボットやAIにとって代わられるという不安もあって、彼らは自分たちを新自由主義の負け犬と思っていたような節がありました。でも、コロナで突然にパァーッと光が当たって、自分たちの仕事に意義や存在価値を感じたようでした。これまで、キーワーカーの仕事の多くが、『低賃金で報われない』と捉えられることが多かったですが、これからは改めて価値ある仕事なのだと伝えていかなければと思います」。
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「文藝春秋」10月号および「文藝春秋 電子版」掲載の対談「万国のおっさんたちよ、団結せよ!」では、新型コロナウイルスをめぐる日本政府とイギリス政府の違い、ブレイディさんが「最底辺保育園」で働いた理由、そしてなぜ日本人は貧しさを肯定できないのかなど、日本とイギリスの文化を比較しながら、ロックなブレイディさんの半生を振り返ります。併せてお楽しみください。
「万国のおっさんたちよ、団結せよ!」