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中学時代からの親友が「将棋が好きならあと2年頑張れ」

 最年少プロの伊藤に対してと比較してしまうのは申し訳ないが、冨田新四段が奨励会三段リーグに初参加したのは2013年の第53回。リーグ最古参(最年長ではない)の三段だった。昇段の感想を求められて発した「うれしいというより、ホッとしている。これからも将棋を続けられてよかった」という言葉に、7年半の重みが感じられる。

 対局前日から歓喜の瞬間に至るまでを「夜はあまり眠れませんでした。そのせいか、1局目の序盤は頭が回っていない感があり、しんどかったです。2局目も諦めそうなほど苦しい将棋でしたが、師匠をはじめ、応援してくれる方々のパワーをもらいました。そのおかげか、中盤で頭が軽くなるというか、これまで未体験の感覚がありましたね」と語った。

 奨励会時代について「17歳で三段に上がったときは20歳までにプロに成れると思っていました。ですがそれほど甘くなく、前期リーグで1勝7敗スタートになったときは退会も考えました。そんな時に中学時代からの親友に『将棋が好きならあと2年頑張れ。それでダメだったならみんなで笑ってやる』と言われたのが妙に心に残りましたね」という。「結局、将棋より好きになれるものが見つからなかったんです」と続けた。

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冨田誠也新四段 ©相崎修司

 転機はコロナ禍での自粛期間中に訪れた。

「自宅で将棋に向き合っているときに『将棋は楽しいな』と感じたのが大きかったです」

 得意戦法は四間飛車。「菅井竜也八段の将棋に対する姿勢を尊敬しているので、少しでも近づけたらと思います」と決意を語った。

「追いつき追い越せの精神で、タイトルを狙えるような棋士になりたいですね」

「報告を受けて涙が自然と出てきました」と小林九段

 冨田四段は小林健二九段門下。小林門下としては伊奈祐介七段、島本亮五段、古森悠太五段、池永天志四段に続く5人目のプロ棋士となる。「今期ダメならもうダメかとも思っていたので、ホッとしました。昇段の報告を受けてお互いに涙が自然と出てきましたね。うれしさを感じたのはその後です」と師匠は振り返る。気持ちのありようについてなどのアドバイスを行っていたそうだ。

 小林九段が開いていた道場に通っていたのが師弟をつなぐ縁となった。中でも古森五段とは同門に加えて同学年ということもあり、長年にわたり切磋琢磨してきたライバルである。

「2007年の第32回小学生名人戦で、ベスト4入りを懸けての直接対決があったんですよ」(小林九段)

 小学生名人戦は準決勝からテレビ放映されることもあり、ベスト4は参加選手にとって大きな目標となる。

「実は1週間前に練習対局でも2人が指していて、その時は冨田勝ちだったんです。ところが本番でも同じ作戦を冨田が指したら、古森が対策を用意していましてね」