4連休中の対局とあって、階下はにぎわっていた。非日常な戦いが行われているところから少し離れるだけで日常の風景が広がっているのが将棋会館らしい。対局室と空気の重さがまったく違う。
1階の販売コーナーでは、ネットで話題になった藤井聡太二冠のアクリルスタンドが売られていた。ジャニーズのアイドル「SixTONES」のアクリルスタンドから着想を得たものとのことで、数年前なら想像もつかないグッズだ。「吹けば飛ぶよな将棋の駒」という「王将」は遠い昔のもの。棋士のイメージが時代を経て変わっている。
2階の将棋道場は、距離を置いてテーブルを設置して入場者数を抑えたり、一局ごとに使用した駒を消毒したりと新型コロナウイルスの対策を行いながらの営業である。以前の形に戻るにはまだ時間がかかるようだった。(全2回の2回目。前編を読む)
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命運を懸けた攻め
長考が相次ぎ、立会人の木村一基九段は「解説者泣かせの一局ですね。一手一手が複雑です」と話した。そうしている間に永瀬拓矢叡王の右桂が8五に飛び出した。検討陣が一様にひねった印象を受けるものだった。ということは、永瀬も同じことを思いながら指していたはず。それをあえて指したところに、本局の命運を懸けた攻めであることがうかがえた。
ここで再び豊島将之竜王が長考に沈んで、夕食休憩に入った。対局者の夕食は「鳩やぐら」からの特別メニュー。黒毛和牛のすき煮やブリの照り焼きなどが詰められて、ボリューム満点。弁当箱は「みろく庵」から譲り受けたものを使っている。この容器は将棋会館での対局だった第5局でも使用された。「将棋めし」の歴史は脈々と受け継がれている。
継ぎ盤に座ると、厳しい表情を浮かべて検討していた
夜戦に入った。ニコニコ生放送のゲスト出演では、永瀬に用意されたバナナの食レポをするなど、ユーモアたっぷりに笑いを取っていた木村九段。継ぎ盤に座ると、対局中のような厳しい表情を浮かべて検討していた。
昨年は豊島から初タイトルの王位を獲得したが、その後、あまり振るわなかった。本局の両対局者や渡辺明名人は他棋戦でも挑戦争いをしていたが、木村九段はなかなか加われなかった。スポーツ雑誌「Number」の将棋特集号のインタビューでは「タイトルホルダーとしては私だけ違う感じでした」と述べている。