多様性がそこに当たり前にある世界
しかしその後、提示する価値観は作品ごとに変わっていきました。
「プリキュアは女の子が変身するもの」
そんな価値観を変えたのは「HUGっと!プリキュア」(2018年)です。この作品ではついに男の子がプリキュアに変身し、ネットに留まらず新聞などでも取り上げられる程に大きな話題となりました(ただ、これは「なりたい自分になった結果」としてプリキュアになっただけで、ジェンダー的側面から男の子プリキュアを見るのはやや趣が異なります)。
また、80年代ポップ調で彩られた「スター☆トゥインクルプリキュア」(2019年)では、メキシコ人と日本人のハーフのプリキュア、キュアソレイユが登場しました。しかし作中では「ハーフ、ミックス、ダブル」という言葉を一切使わず、公式設定も「メキシコ人のお父さんと、日本人のお母さんがいる子」でした。しかも同作のプリキュアは5人中2人が宇宙人だったり、1人は学校に通わないプリキュアがいたりと、無理に多様性を強調せず「多様性がそこに当たり前にある世界」を描き、好評を博したのです。
ワンオペ育児とは対極の「支えあう育児」を描く
先述の「HUGっと!プリキュア」では大人側の問題である“育児”もアップデートされました。主人公、野乃はな(キュアエール)は、ひょんな事から未来から来た赤ちゃんを育てる事になるのですが、いわゆる“ワンオペ育児”に陥ります。
子育ての知識が乏しいプリキュア達には、当然育児にもすぐに限界が訪れる。そんな時、野乃はなは両親や周囲の大人の力を借りたのです。赤ちゃんが泣き止まない時、子育て経験者である母親の「心臓の音を聞かせると赤ちゃんは安心する」という助言により赤ちゃんが泣き止んだり、みんなで離乳食を作ったりとワンオペ育児とは対極の「支えあう育児」が描かれました。
ほかにも関西弁を話すハムスターが人間(すごいイケメン男性)に変身して子育てをしたり、専業主夫でかっこいい父親が登場したり。いま、世の中が目指そうとしている社会が当たり前に描かれていたのです。